若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 助けなきゃ。僕の大切な人。
 まともな思考とおかしな思考が混ぜこぜにやってくる。
 貧血か立ちくらみか。いずれにしても早くどこかで休ませないと。それと身体を支えた時に感じた体温が少し気になる。熱があるんじゃないかな?
 携帯電話の短縮番号をワンプッシュ。

「真鍋さん、ごめん。さっきのコンビニの辺りにいるから戻って来て」

 サッと一言いって電話を切る。
 彼女は聴こえていないみたいで、壁にもたれてしゃがみ込みながら、苦しそうな表情で呼吸を整えていた。

「大丈夫……じゃなさそうですよね」

 どうすれば楽になる?

「いえ、ただの貧血なんで、じき落ち着きます」

 ようやく薄く目を開けた彼女がそう教えてくれる。
 じき落ち着くって。そんな感じにはとても見えない。

「……でも、熱ありそうですよ?」

 気がついたらおでこに手を当てていた。
 しっとりとした肌触り。と言うか、冷や汗? 思った通り、少し熱い。
 この先に大学病院があったっけ。ものすごく疲れてそうだし、多分この人はお医者さんだ。父さんと同じ匂いがする。
 看護師ではなく医師だと思ったのはただの勘。だけど、だてに総合病院を経営する医者の子どもとして育っていない。どうしてかは分からないけど何となく見分けらる。

「えーっと、夜勤明けかな? 家ですよね。送ります」

 思わず口にしてから慌てて言い訳をする。

「あ、不審者じゃないですよ。出勤途中の善良な市民です」

 自分で言いながら、善良な市民ってなんだよと突っ込みたくなる。しかも出勤途中と言ってしまったけど、今向かっているのは取引先で厳密には出勤ではなく客先訪問だ。
 だけど、僕の言葉に言葉に彼女は笑ってくれた。
 満面の笑みではないけど、苦しげな表情が和らいだのでホッとする。
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