高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


しばらく考えていた緑川さんが「つまり、仕方ないから社長を諦めるってことですか?」と聞くので苦笑いをこぼした。

「わからないですけど……でも、たぶん、そんな簡単に諦められるなら、あの時、二日酔いの薬を受け取ってました」
「でしょうね。でも、早めに諦めたほうが高坂さんのためですよ。……なにも自分から傷つきにいく必要もないでしょう」

最後、ボソッと言われ驚く。
まさか緑川さんから〝傷つく〟なんて言葉が出てくるとは思わなかった。

いつだって淡々としていて事務的で、感情なんてどこか遠くに置いてきたような態度だから正直意外だ。

「緑川さんって、もしかしてわかりにくいだけで優しいんですか?」

まじまじと見ながら聞くと、緑川さんは迷惑そうな表情をして顔をそらした。

「高坂さんが社長を諦めると言うなら、優しくしてあげないこともないです」
「じゃあ、今まで通りで大丈夫です。緑川さんの辛辣さにも慣れてきたところなので」

へらっと笑った私に、緑川さんは呆れたようにため息を落とし、カップに手を伸ばした。



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