高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「大丈夫ですか? 体が熱いですが……病院は?」
「病院……? ああ、えっと、今行ってきました。疲れていたところに風邪ひいちゃったので、症状が強く出ちゃってるみたいで……点滴を打ってからは割としっかり動けていたんですけど、またクラクラしてきて」

衛生面から電柱に抱き着いているのはよくない。
でも、緑川さんにしがみつくのも抵抗があって、どうするべきか悩む。

まだ緑川さんの方がいいだろうか。

「まさか本当に仕事が忙しかったんですか?」

見上げると、意外そうに眉を寄せた顔がそこにあった。

「あ、いえ……そうではなくて。上条さんとのことで、私なりに色々考えることがあって……桃ちゃんの件とか。それで睡眠不足が続いたりしていたら、ついに熱が出ちゃったみたいで。すみません」

なんとか自分の足で立とうとするけれど、どうしても無理で、緑川さんの腕から手が離せない。

でも、緑川さんはそれをはがそうとはせずに支えてくれていた。

「体調が悪いなら悪いと言えばいいでしょう。こんな、立っているのもツライ状態だったなら、言ってくれれば俺だって無理に話なんて……」
「でも、上条さんの話だから、ちゃんと向き合いたいと思ったんです。緑川さんの言うように、たしかに私は逃げてたから」


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