石像は凍える乙女を離さない~石にされた英雄は不遇な令嬢に愛を囁く~
「ルルが俺だけのものになると誓うのなら、アイツらは見逃してやる」
「……あなただけの、もの?」
「そうだ。俺以外の事を考えないで。俺以外に触れさせないで。誓える?」
まるでワガママな子供のような言葉。
だが、それは嘘偽りなく本気の要求だとルルティアナは理解できた。
どこまでも優しげに蕩けた瞳で自分を見つめる男の狂気に、息を飲み身体を震わせる。
「……どうして。どうしてそんなこと」
「君を愛してるからだ、ルルティアナ。石像のまま永遠の孤独に朽ちると思っていた俺に温もりと希望を与えたのは君だよ、愛しい人。君を手に入れるためならば、俺はあの黒竜さえ復活させても構わない。君も俺がよいといってくれたではないか。あの口付けで俺は解放された。俺の全てはルルティアナのものなんだ。離れるなんて許さないよ」
「っ……!!」
真っ黒なで巨大な竜を操り人々を襲うバルトの姿が脳裏をよぎり、ルルティアナは全身を強張らせる。
何故、と頭の中を占めるのは後悔と絶望と恐怖。幼い憧れと恋情が音を立てて崩れ落ちていく気がした。
幸せの残像にすがるように、あの石造の真実を知らずに依存してしまった自分の罪なのだろうか。
炎とバルトの体温で寒くなどない筈なのに、凍えそうに寒かった。
「わ、私は……ただ、話を聞いてくださる石像のあなたが好きだったの……こんな、こんなのってないわ……」
ルルティアナにとってのバルトは、何があっても自分を否定しない無機物だった筈だ。
こんなに残酷な仕打ちをする恐ろしい人間などではない。
「では、君が望む時に俺はただの石像に戻ろう」
「え……?」
「君が俺に沈黙と不動を願うのならばその通りにするさ。代わりに、俺が望む時は君の全てを俺に与えてほしい」
「ほんとう……?」
まさかの申し出にルルティアナは瞳を大きく見開き、唇を震わせた。
大きな掌が伸びてきて涙で濡れきった頬を撫でた。まるであやすような優しい動きで温めるように隙間なく触れてくる。
小さな唇を太い指先が辿り、顎を撫で、首筋を柔らかくまさぐる。
その動きなが望むものを感じとり、ルルティアナは乾いた唇を舌先で舐めた。
「どうかこの憐れな男に愛をくれ」
乞うような言葉とは裏腹に蠱惑的な笑みを浮かべるバルトの手が、ルルティアナの顎をすくいあげた。
その動きに促され、ルルティアナはつま先を立てて、顔を近づけてくるバルトの唇に己からくちづけを差し出す。
顎にそえられていたバルトの手のひらが這い上がり耳たぶを包むように撫でながら、髪をまさぐりながら髪の中に挿し込まれた。
後ろ頭を包むように支えられ、くちづけが深まる。
入り込んでくるバルトの厚みのある舌の熱さに、ルルティアナは甘い声を上げる。
「愛してるよルルティアナ」
情熱的に愛を囁くバルトの声と共に、先程まで燃え上っていた屋敷を包む炎が嘘のように消える。
それを見届けたルルティアナは自分を抱きしめるたくましい腕に身を任せ、きつく目を閉じたのだった―――――――


