石像は凍える乙女を離さない~石にされた英雄は不遇な令嬢に愛を囁く~
破れそうなほどに激しく脈打つ心臓を胸の上から押さえながら、ルルティアナは屋敷に帰り着いていた。
休まず走り続けた為に足は震えていたし、喋ることができないほどに呼吸が乱れている。
額からたれる汗をぬぐうこともできずに見つめるその先には、笑顔を浮かべたバルトが立っていた。
「おや、どうして来たんだい可愛いルル」
「あ……ああ…」
赤い炎がバルトの顔を煌々と照らしている。
ルルティアナが生まれ育った屋敷はすっかり火にまかれており、周りの雪を溶かし始めていた。
「なんて、なんてことを……!」
「どうしてそんな顔をする? 君を苦しめたやつらの家なんてどうなってもいいじゃないか」
「ああ、お父さま! お義母さま! メルリア!!」
ルルティアナは慌てて屋敷に駆けだすが、その身体はバルトの腕に囚われてしまう。
「駄目だよルル。危ないじゃないか」
「でも、家族が!」
「あんな連中が家族なのかい? 君をずっと苦しめてたじゃないか。しかも俺からルルを売るように嫁がせるなんて」
「それは……でもいけないわ! 私はこんなこと望んでいないわ!!」
ルルティアナは瞳から大粒の涙をぼろぼろ零しながら、自分を抱え込んでいるバルトの腕を叩く。
確かに憎いと思った夜はある。何故自分ばかりがと呪った日もあった。
それでも、こんな残酷な復讐など望んでいないと、ルルティアナはしゃくりあげながら訴えた。
「ふうん?」
だがバルトはそんなルルティアナの訴えに、不思議そうに首を傾げるばかりだ。
「そんなに言うならば焼くのはやめてやってもいいけれど」
「ほんとう!!」
まさかの言葉に弾かれたように顔を上げれば、ゾッとするような優しい顔が見下ろしてきていた。