Rainbow Moon 〜操遇〜
真夏の名古屋。
朝から気温は既に30度を超え、昨日降った夕立の湿った空気が、蒸し暑さを重ねる。

その家族は、名古屋近辺の守山区(もりやま)に住まいを構えていた。

「行ってらっしゃい」
妻の千佳(27歳)が、二人を表まで見送る。

「今日は早く帰るからな」
夫の笹原 信雄(45歳)が笑顔で答える。

「行って…きます…」
普段は手を振るだけの娘の七海(15才)が、2人それぞれの耳元で囁く。

七海(ななみ)は、1年前の不幸な出来事以来、声がほとんど出なくなっていたのである。

信雄は近くの電車の駅へ。
七海はバス停へ。



「はぁ…」

二人を見送った千佳が、ホッとため息をつく。

「笹原さん、おはようございます。相変わらず仲がいいわね」

向かいの奥さんが羨ましそうに言う。

「おはようございます。今日も暑くなりそうですね」

晴れ渡った空を見上げる。

「たまんないわよねぇ、ほんとに。でもまた夕方には激しい雨が振るらしいわよ」

「え…、そう…ですか」

今年の夏も異常気象は変わらず。
普通は太平洋高気圧に覆われ、海からの夏風が吹く頃。

それが、大陸の高気圧が上空に寒気を運び、台風から変わった低気圧の雲が、渦を巻いて日本海に停滞していた。

それにより、局地的な雷雨が、連日各地で大きな被害を出していた。
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