離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
「今夜は念のため、入院だそうです。頭も打っていますし、そのあとはしばらくギブスに松葉杖ですが、日常生活に戻っていいそうです」

俺と兄に向って説明する柊子。その顔が見られない。
柊子に寂しい思いまでさせて仕事優先の毎日を送ってきたのに。部下のミスを見落とし、会社全体の不利益につなげそうになって、挙句怪我までしてしまうなんて。

柊子に合わせる顔がない。

「瑛理、今夜は私もここに泊まるから。親族ならOKだって」
「子どもじゃあるまいし。……いいよ」

ぼそっと答えた俺の声は不機嫌で素っ気なく響いた。

「でも、今夜は痛みや熱も出るかもしれないっていうし、心配だから」
「平気」

俺は低く言った。

「悪いけど、ひとりにしてくれ」

柊子が唇を引き結び、立ち上がった。兄が柊子の肩に触れる。

「柊子ちゃん、瑛理結構疲れてるから、今日は帰っちゃっていいよ。明日も俺が家まで連れていくから」
「はい……誠さん、よろしくお願いします」

柊子は丁寧に頭を下げ、それから俺に向かって弱々しい笑顔を見せた。

「それじゃあね、瑛理」
「ああ」

俺はうつむいて柊子の笑顔から顔をそむけた。いたたまれない気持ちだった。
柊子に当たりたいわけじゃない。だけどこのまま一緒にいたら、やり場のない情けなさを吐露してしまう。そんな俺を柊子に見せたくない。

ずっと一緒にいたい。柊子を守っていきたい。
そう誓ったのに、俺はなんて格好悪いんだろう。




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