離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
朝のうちに家事を済ませ、十時過ぎにゆっくり起きてきた瑛理に声をかける。

「ブランチできてるよ。フレンチトーストにしたの。一緒に食べよう」
「ああ、ありがとう」

瑛理は力ない声で言い、顔を洗いに行った。向かい合って食卓につくのは久しぶりに感じられた。

「瑛理、今日この後どうする? 足以外の部分は動かさなきゃ駄目なんでしょ? トレーニングとかするなら一緒にしようかな」

腹筋やストレッチなら気がまぎれるのではなかろうか。瑛理はもともと自宅ではそれなりにトレーニングをする方だ。忙しくなってから、なかなか運動できていないようだった。

「いや、今日は片付けておきたい仕事があるから」
「そっか。でも、あんまり根を詰めたら駄目だよ。あ、マッサージしようか。右足に頼ってるから筋肉張っちゃってない? 動画サイトで素人でもできるストレッチや軽いマッサージの方法を覚えたんだ」
「悪いけどいい。俺のことは気にせずに柊子は柊子で休日を過ごしてくれ」

取り付く島がない。
しかし、このまま瑛理を腫れものにでも触るかのように扱い続けたくない。もう少し心を開いてほしいし、普通に会話ができる関係に戻りたい。

「瑛理、来月は私も瑛理も誕生日があるじゃない?」

私たちはそろって十月生まれだ。私が十日早い。

「お祝いに食事に行こうよ。ちょっと素敵なお店を予約しちゃう。考えているところがあってね……」
「柊子」

瑛理が若干苛立ったような声をあげた。

「今は仕事に集中したいんだ。何を言われても、前向きに考えられない」
「……ごめん」
「柊子が気を遣ってくれてるのはわかるけど、俺も余裕がなくて嫌なことを言ってしまいたくない。しばらく俺のことは放っておいてくれ」
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