離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
瑛理が退院し、仕事に復帰してから一週間は瞬く間に過ぎていった。

瑛理は変わらず仕事に行き、忙しそうにしている。松葉杖を使うので満員電車を避けて朝は早く出る。そのため朝食は取らないで出かけていく。夜も毎晩遅い。食卓を囲むことがなくなり、必然私との会話は減った。

瑛理自身がチームの信頼を取り戻そうと躍起になっているのは感じられる。多忙ゆえに私とのコミュニケーションがおろそかになってしまうのは仕方のないことかもしれない。
だけど、私は壁を立てられているように感じている。ここから先は入ってくるなと言われているよう。それはものすごく寂しいことだった。

瑛理にとって私はなんなのだろう。奥さんなのに、まるで自分が空気みたい。
同じ家にいても距離を感じる。大事なことは話してくれない。頼ってくれない。
私に話す内容じゃないのかもしれない。それでも背中を向けられるのは寂しい。せめて目を見て話してほしい。
私と目が合うと気まずそうに視線をそらすのはなぜ？　もう、私のことは好きじゃなくなった？

暗い考えが止まらなくなりそうで、いつも私は思考を止める。
考えちゃ駄目だ。今は瑛理も余裕がないのだ。そんなときにコミュニケーションをせっついてはいけない。

週末がやってきた。
土曜日も出勤と通院があった瑛理が、日曜は休みで家にいると言う。

チャンスだと思った。距離ができている状態を長く続けたくない。打ち解ける時間を設けて、明るい話をすれば彼も心がラクになるのではないか。
もっと私を見て、というような恨み節は禁句だ。先の楽しい予定や何気ないやりとりをすれば、きっと瑛理も気持ちがほぐれるはず。
< 143 / 166 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop