禁忌は解禁された
「ごめんね!ごめんね!
痛いよね……ごめんなさい!」
「姫、謝りすぎですよ!」
車内の後部座席で、井田の手の平にハンカチを巻きながら何度も謝る一颯。

「でも……こんな……」
一颯は目を潤ませ、ハンカチの上から井田の手の平をさすっていた。

「姫」
「え?」
「でもこれが、俺の仕事です」
「え?」
「姫は神龍組の姉さんで、俺達の姫です。
当然狙われる。だから、その為に俺がいるんです。
俺は姫の護衛で、盾です」
「わかってるよ……」

「わかっていません!」

「え?」
「俺なんかの為に、こんな傷程度で泣くなんてあり得ません!貴女には、もっと気丈にしていただかないと!
ヤクザに、情けなど必要ありません!若もよく言ってますよね?」
「うん…」
「だから、泣き止んでください」
「うん」
井田を見上げると、井田が怪我をしてない方の手で目元を拭ってきた。

「え?い、井田…くん?」
「あ、す、すみません!!咄嗟に……!!」
「ううん…」
「じゃ…じゃあ、帰りましょう。すぐ車出しますね」

屋敷に着き、一颯を部屋まで送った井田。
「では、姫。
お疲れ様でございました!」
頭を下げ、言った。

井田も部屋に戻り、一息ついた。
煙草を咥え、火をつけた。
一颯の目元を拭った手を見つめる。
「ヤバい……無意識にしてしまった……ちゃんと抑えないと…!」

そこへ、襖越しに一颯の呼びかけられる。
「井田くん?いる?」
「え!?はい!」
「開けるね!」

ゆっくり襖を開けてきた一颯の手には、救急箱が握られていた。
井田は慌てて煙草を灰皿に潰し、畳の上に正座をする。

「手当て、させて!」
「あ、いえ…自分で…!」
「一人じゃ大変でしょ?させて!」
「はい…」
「手…出して?」
おとなしく手を平を差し出す、井田。

ハンカチを優しく取り、手当てをする一颯。
丁寧に消毒し、包帯を巻く。
その姿を井田は、ただジッと見つめていた。

「井田くん」
「は、はい」
「井田くんは、私の家族だよ」
目線は井田の手に向けたまま、一颯は口を開いた。

「え…?姫?」
「情けじゃないから!」
「え?」

「家族が傷つけられたら、悲しいよ。
井田くんだって、そうでしょ?
…………はい、出来た」

そして一颯は、井田に向き直った。
「姫……?」

「あと……“俺なんかの為に”なんて、二度と言わないで!井田くんや銀くんの言うこと……わかるけど、やっぱり悲しいよ!家族なんだから!」
「姫…」

「それだけ、言いたかったの。
井田くんは仕事で私を守ってくれてるんだろうけど、私は井田くんのこと、そんな関係だと思えない。
だから、謝るし、お礼も言いたい!
━━━━━━井田くん、助けてくれてありがとう!」
そう言って一颯は、井田の部屋を出た。
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