【完結】橘さんは殺された。


「店にいる時は俺も城戸先生も、橘には気付かなかったんだ。……でもあの日店を出た後、橘が従業員入口から出てくるのを、俺は見たんだ」

「……城戸先生はその時、何をしていたんですか?」

 と牧村先生に、俺は問いかけた。

「城戸先生はトイレに行くと言ってたから、俺は先に店の外で待ってると言ったんだ。……その時だよ、俺が橘を目撃したのは」

「それで先生達は、その後どうしたんですか?」

 思わずコーヒーのマグカップを持つ手に、力が入る。

「……俺と城戸先生で、橘の後を付けたんだ。あのバイトの件について、直接問い詰めてやろうと思って」

「それで……!?」
 
 と前のめりになる俺に、瀬野さんは「藤嶺、落ち着け」と言ってくる。

「……はい。すみません」
 
 ちょっと俺……焦ってるな。 自分でもそれが分かる。
 刑事はいつどんな時も、冷静に物事を判断しなければならないのに。

「牧村先生、続きをお願いします」

「あ……はい。 それで問い詰めてやろうと思って後を付けたんだが……見失ってしまったんだ」

「見失った……?」

 もしそれが本当だとしたら……あの二人は犯人じゃないということになる。

「ああ。……城戸先生と周りを探したが、橘はどこにもいなかった」

「それは本当ですか?」

 と聞く俺に、牧村先生は「本当だ! 俺達は橘を殺してなんてない!」と訴える。
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