辺境に追いやられた伯爵令嬢は冷徹な王子に溺愛される
「おかーたま。おなかちゅいたの」
私の質素なワンピースの裾を引っ張りながら、部屋へと呼び戻そうとする。
「お母様?」
アレックス殿下が驚いたように目を見開いた。
「このひとだーれ?」
そこでアンネも彼を認識したようで、トコトコと歩いていく。
「ダメよ! アンネ!」
私がアンネの手を引けば、アレックスは静かに言葉を発した。
「フェリーネ、結婚したんだな。旦那は帰ってるのか?」
冷徹な表情で言う彼に、私はギュッと唇を噛んだ。
この人は何を言って、どうしたいというのだろう。いきなり現れたその人に、言いたいこともあるが、この人は私が普通に話せるような人ではない。
「殿下、お戯れはおやめください」
私のセリフに目の前の空気が冷たくなったのが分かった。
そのことはすなわち、アレックスが王子殿下だという無言の肯定だろう。
その時、動揺しすぎたのだろうか、自分の血の気が引くのがわかる。
ダメ、倒れたら……。
柱に手を伸ばしたが、届く前に私の視界は暗い闇の中へと落ちていった。