嘘よりも真実よりも
 私を引っ張ってくれる強さと、思いやりのある優しい人なんだと、漠然と感じた。だから私も、思いの外、すんなりと伝えられたのかもしれない。

「47階へ行きたいんです」
「あっ、47階ですか」

 彼は、合点がいったように手を打った。すべてのつじつまがつながったみたいに。

「45階までしかないから、それは困りますよね。46階以上は富山不動産のオフィスしかないので、エレベーターも別なんですよ」

 そう何気に言いながら、彼はふと、興味深そうに私を眺めた。

「富山不動産の関係者でしたか。そうとは知らず、失礼しました」
「あ、いえ……そんな……」

 軽くだけれど、頭をさげられては戸惑ってしまう。

 オフィスビルのオーナーである富山不動産が、どれほどの地位にあるのかなんて、私にはわかりはしないのだ。

 ただ、彼の様子を見ていると、普段、兄妹のように会話する仁志さんと私の間には、一歩外に出れば、大きな隔たりがあるのだと思う。

 やっぱり、清貴さんに来てもらうのだった。後悔していると、青年は気を取り直したように、エレベーターホールの奥へ進んでいく。私もあわてて追いかける。

「46階以上へ行くエレベーターは、ここと後ろの二台だけですよ。46階からしか止まりませんので、俺はここで」
「はい、ありがとうございます」

 エレベーターのボタンを押すと、すぐにドアが開く。中へ乗り込むと、青年の言う通り、46階から50階までボタンが並んでいた。

「47階ですね」

 青年はドアを手のひらで支え、47のボタンを押してくれる。
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