嘘よりも真実よりも



「それにしても、今日のみちるは一段と綺麗だな。兄さんが自慢したくなるのもわかるよ」

 清貴さんにエスコートされて、パーティー会場へ着くと、彼はあらためて私をしげしげと眺めた。

 少し派手じゃないかと感じる赤いドレスは細身で、胸元こそ隠れているものの、腕も背中も、今まで見せたことないぐらい露出してる。

 ドレスを変えて欲しいなんて言う勇気はないし、清貴さんが綺麗だと褒めそやすから、言われるがままに来てしまったけれど。

「自慢だなんて……」
「自慢だろ。前からみちるはうわさになってたし、そろそろ解禁って気分なんだろう。遅いぐらいだよ」
「うわさされてるんですか?」

 思わず不安になるけれど、清貴さんはあっけらかんと笑う。

「飯沼だって、みちるにひとめぼれしたんだよ。俺に紹介しろしろってうるさくてさ。うちの編集社じゃ、かなりの有名人だよ」
「それは、翻訳のお仕事をいただいてるからで……」

 清貴さんは、大手編集社の六花社(むつはなしゃ)に勤務している。私が翻訳の仕事に就けているのも、彼のおかげだ。

 飯沼さんは清貴さんと仕事関係で知り合い、たまたま編集社に来ていた私を見かけたことがあったみたいだった。

「飯沼も別れて後悔してるみたいだよ。より、戻す気はない?」
「……ないです」
「はっきりしてるなぁ、みちるは。今度はもっといい男に出会えるさ」
「お付き合いはもう、あきらめてます」
「そんなこと言うなよ。みちるはもっと自信持っていいよ」

 伏し目がちになる私を元気付けるように、清貴さんは私の肩にそっと手を乗せる。

 そのまま軽く押されて、パーティー会場となるホテルの一室へ向かう。

 会場へ、数人の着飾った貴人が優雅な足取りで入っていく。
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