嘘よりも真実よりも
「おかしくないですよ。本当に、お綺麗です」

 やはり、総司さんはやたらと私を見つめてくる。

 全然、落ち着かない。私を口説こうとしてる。そんなの容易にわかるのに、目をそらすことでしか、抵抗できない。

 沈黙の間を埋めるように、ホットウーロン茶のグラスに指を伸ばす。同時に横から伸びてきた彼の手が、指に触れた。

「あ……」
「性急にならなければと思うほど、焦っています」

 綺麗だけれど雄々しい指が、私の指にからまってくる。しっかりと合わさる手のひらに、胸が跳ねる。

 このままでいたら、私たちはどうなってしまうんだろう。

「酔うあなたのほおが桜色に色づいて、とても綺麗だと見つめていました。このまま帰して、みちるさんが誰かのものになってしまうなら、必ず後悔する。そんなことばかり考えてしまっています」
「誰かのものにだなんて……」
「なりませんか」
「ならないです」

 首を横にふるふると振る。

 誰かとお付き合いしたいなんて気持ちは、もうなかった。少しの仕事と、富山家があれば、私は細々と生きていける。これまでも、そうして生きてきたように。

「俺のものにも?」

 総司さんはささやくように声を吐き出し、顔を寄せてくる。

「え……」
「今夜だけとは言わず、俺のものになってほしい」
「待って……」
「待てないです」

 からまる指に力が入る。愛の言葉なんて後回しでいい。今は性急な行為が私の気持ちを動かす手段だと知ってて、総司さんは唇を重ねてきた。
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