嘘よりも真実よりも
 最初は触れるだけのキスだった。ぎゅっと目を閉じたら、後ろ頭に手が回ってくる。すぐに離れた唇は、ほんの少し、焦らすようにかすかに触れ合って、いきなり深くなる。

 総司さんはキスが上手。
 身体の中が、じんっとする。私を簡単に高まらせる方法を熟知してる。

 はっ、と甘い息が漏れて、思わず彼の手を握り返したら、柔らかくて弾力のある舌が唇をなぞってきた。

「こんな……いけないです……」
「なぜ」
 
 問うのに、返事は期待してない。すぐに唇は塞がれて、食むように唇を吸われて……。心はだめだって言ってるのに、身体はそれほど抵抗してなくて、心まで揺らぎそうになる。

「こんなところで、だめ……」

 彼を突き放そうとするけれど、さっきまで優しく微笑んでいたはずの総司さんは、色っぽい目をして私の唇に何度もキスをする。

「だめじゃない」
「人が、います……」

 ここは、ラウンジ。それも、人目につきやすいカウンター。

「俺には見えない。あなたしか、見えません」

 だめなのに。どうして……。

 入念に愛された唇は、もう抵抗を忘れて、隙間を割って滑り込んできた舌を受け入れてしまう。

 情熱的なキスだった。私の全てをとろかすような。好きだとか、愛してるとか、そういう言葉は後にして、ただ彼のキスが気持ち良くて、深みにはまっていくみたいだった。

 はぁっ、とお互いに息をもらして、唇を離す。充分すぎるほど求め合った後は、彼の愛の言葉が待っていた。
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