嘘よりも真実よりも
「お付き合いしてください。みちるさんにひとめぼれしました。あなた以外に考えられない。またこうして、ふたりきりで会いたい」
「……私は、お付き合いとか、そんな……」

 キスを受け入れておいて、素直になれないなんておかしいだろう。

 遊び慣れてるなんて思われたくなくて、うつむいてしまう。

「富山家にふさわしい男である自信はあります。少しでも心が揺らいだなら、受け入れてほしい。後悔はさせません。結婚前提でというなら、喜んで」
「……富山家」

 ハッと顔をあげたら、総司さんは私の横髪をかき上げた。

 総司さんは、何か、勘違いしてる。

「ずっとあなたを見ていましたから、隠していてもわかります」

 清貴さんとずっと一緒にいたこと。恋人のように寄り添っていながら、恋人ではないと否定したこと。そして、私が苗字を伝えなかったこと。その行動が、彼を誤解させたみたいだった。

「返事は来週にでも。来週の土曜、同じ時間に、ここで待っています」
「……来れません」
「それでも、待っています」

 富山家にふさわしいと言える総司さんが、私につり合うはずがない。

 真実を知ったら、彼は傷つくだろう。
 もしかしたら、私を嫌うかもしれない。

 だったら、このまま、今夜のことは良い夢として終わらせた方がいいだろう。

「期待しないでください」

 私はそう言うと、するりと椅子を降りて、ラウンジから逃げ出した。
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