嘘よりも真実よりも
「へー、知った男が、あのパーティーにねぇ。誰だろう」

 笑顔を貼り付けた清貴さんに見つめられたら、逃げられない。彼は昔から、彼の意に沿うよう私が動くまで、笑顔で見つめてくるのだ。

 あれはもう、何十年と前の、私と清貴さんが同じ学習塾に通っていた時のこと。

 清貴さんは運転手付きの車で塾に通っていたけれど、私は徒歩だった。いつかは富山家を出る私のために、贅沢を当たり前と思ってはいけないという富山夫妻の教育方針のためだった。

 塾に行かせてもらえるだけでも嬉しかった私にとっては、清貴さんとの小さな差は、それこそ、ささいなことでしかなかった。

 それでも、彼にとってはあわれみの対象だったのだろう。

 彼はいつも、一つ目の角で、車を停めて私を待っていた。私が車に気づくと、後部座席のドアを開けさせ、笑顔を貼り付けたまま、私が乗り込むのを無言で待っていた。

 彼は私に指図をしない。だけど、そうしなきゃいけないように操るのは得意だった。

 兄妹のように育ったから、清貴さんが私に求めていることはなんとなくわかるし、実の妹を心配するように、私を気にかけてくれているのも知っている。

「金城さんという方です……」

 小さな声で告白する。

 言わない選択肢は与えられてなかった。
 私が富山家に暮らす以上、かくしごとができるはずもなかった。

「金城? 金城って、あー、富山ビルに本社が入ってたな。あの、金城?」
「はい。金城マーケティングの専務だそうです。先日、仁志さんのスケジュール帳をお届けした時に困っていたら助けてくださいました」
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