嘘よりも真実よりも
 つまらない私に惹かれるそんな男性はいなくて、好きになれる人なんて一生できないんじゃないかとも思っているけれど。

「はい、大丈夫です」

 そう返事しながら、清貴さんの朝食を邪魔しないようにと、キッチンに移動する。すでに、興味を失ったのか、彼はフレンチトーストをおいしそうに食べている。

「まだ家にいるよね?」
「はい。今、清貴さんと一緒に朝食をいただいてます」
「なんだ、清貴、起きてるのか。じゃあ、清貴に頼めばよかったかな」
「頼みって、どんな?」

 首をひねると、清貴さんもふしぎそうに私の方を見る。

「困ったことにね、スケジュール帳を忘れてきてしまったんだよ。たぶん、リビングにあると思うんだけどね」
「スケジュール帳を忘れた? それは、大変ですね」

 だろう? なんて言いながら、仁志さんは小さな息をつく。彼の困り顔が手に取るように浮かぶ。

「兄さん、スケジュール帳忘れたのか? 珍しいな、大事なもん忘れるなんて」

 いつのまにか、清貴さんが私の横に来て、そう言う。

「清貴か。スケジュール帳を見つけたら、すぐに会社まで持ってきてほしいんだが」

 清貴さんの声が仁志さんにも届いたのだろう。清貴さんに頼むように言うが、私はおずおずと申し出る。

「清貴さんはこれからお仕事ですので、私がお届けします」
「オフィスの場所はわかる?」
「はい、たぶん。大丈夫だと思います」

 仁志さんの働くオフィスビルには行ったことがない。

 私たちは同じ家で育ったけど、富山家に縁があるのはただの温情で、一歩外に出たら、富山家にゆかりのあるものとして振る舞うことは許されず、彼の会社に顔を出すなんてもってのほかだった。

 正直、ちょっと不安だったけど、仁志さんの助けになりたいという気持ちが湧き、衝動的に申し出ていたのだと思う。

「富山ビルの47階だよ」
「47階ですね、わかりました」
「スケジュール帳、見つかったら連絡がほしい」
「はい、すぐに」
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