嘘よりも真実よりも
 先に乗り込んでいた、けげんそうなサラリーマンに頭をさげて、エレベーターから離れる。

 ドアの閉まるエレベーターの上部へ視線をあげる。

 やっぱり、ない。
 エレベーターには、45階までの表示しかなかった。

 いくつか並ぶエレベーターを見回しながら、途方にくれてしまう。ここへ来て、まさか、47階へつながるエレベーターがないとは思ってもいなかったのだ。

 とりあえず、仁志さんに到着したと連絡しよう。そう思って、かばんからスマホを取り出していると、「お困りですか?」と、後ろから声をかけられた。

「え……?」

 驚いて振り返ると、背の高い青年が立っていた。

 彼は私を見るなり、ぽかんと口を開けた。声をかけてきたのは彼なのに、なぜか、私より彼の方が驚いてるみたいだった。

 とっさに、髪を指ですいた。乱れた髪は整えたはずだったけど、やっぱり富山ビルにはふさわしくない様相に見えたのかもしれないと思ったからだ。

 よほど、浮いてるのかもしれない。受付嬢もとてもきれいな人たちだった。隙だらけの格好の女性なんて、戦場さながらのあわただしさのあるオフィスビルの朝には、相当似つかわしくないだろう。

 青年も、出社してきたばかりだろう。富山ビルに入る企業は、大企業ばかりだと聞いていたけど、納得してしまう。

 彼は高級そうな細身のスーツをとてもきれいに着こなしているし、ぴかぴかの靴は、彼の品の良さを強調させるにはじゅうぶんに洒落たデザインだった。そして何より、これまで出会ったどんな男性よりも、美しい人だった。
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