ひねくれた純愛 アイリスとカーライル

ゆすり事件の後

＜ゆすり事件の夕方の事＞

俺は教授の部屋の前に立った。

ラングレーの助手仕事が終了したので、その報告をしておかねばならない。
それに昼休みのゆすり事件も、
気になっていた。

コンコン
何の反応もない。

「カーライルです。失礼します」
ドアを開けると、デスクには誰もいない。

壁際を見ると、
脇のソファーで教授がうつぶせで、倒れこんでいた。
「大丈夫ですかっ？！」

俺が屈んで声をかけると、
教授は顔を少し向けて、薄目を開けた。
「貧血だ。少し休めば・・・
回復するから」
声は小さく、顔色が青い。

「かなり無理していますよね」
俺はつい、余計な事を言ってしまった。
昼休みのたかり事件のストレスもあるのだろう。

教授はなんとか手をついて、
ソファーに座りなおした。
「誰にも必要とされなくなるのは・・・つらいことだと思う」

教授が俺の顔を見ずに、書類の山を見た。
「仕事、やるべきことがあるということは・・まだいい」

最後は独り言のようにつぶやいた。
「異国で生きていく、
厳しいのが当たり前だ」