いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
「それだから俺は、烏丸家の当主として、やらなければならないことがある」

 そう言うと、泰章は史織の前に両膝をつき腰を落として、そのままかがみ、両手をついて頭を下げ……。

「申し訳なかった。許してほしい」

 ――土下座をしたのである。

 兄の態度にハッとしたのか、薫までその隣に正座をして両手をつき、頭を下げてしまった。

「申し訳ございません!」

 義母と話をしている時、泰章は土下座をして謝らなくてはならないのはこちらの方かも、と言っていた。今まさにそれをやられているわけだが、これは史織の方が焦ってしまう。

 史織は両膝をつき、かがんでふたりの肩に手を置いた。

「頭を上げてください。こんなことされたら、わたしの方が困ります」

「しかし、しっかり調べがついていなかったとはいえ、君を傷つけた。つらい思いもさせた」

「私もです。いろいろいやなことを言ってしまって、ごめんなさいっ!」

 オロオロしつつふたりを交互に見て、福田に顔を向ける。福田が苦笑いで頷くので、史織は薫の肩をポンポンと叩いた。

「薫さん、わたしが選んだケーキを食べてくれてありがとうございます。今度、一緒に食べてくれますか? たくさん選んできます。食べ比べしましょう。いっぱいお話したいです。……それで、帳消しにしましょう?」

 薫は大きな目をぱちくりとさせる。

「そんなことで……いいのですか……。いえ、むしろ……とても嬉しいです。ケーキ、好きです」

 大人っぽい顔つきなだけに、こういった表情をするととてもかわいらしい。なんだか史織は嬉しくなってしまった。

「よかった。わたしも嬉しいです。約束ですよ?」

「はい」

 薫が嬉しそうに微笑んでくれたのを見届けて、史織は泰章の両手を取り、身体を起こした。

「頭なんて下げないでください。わたしは、少しのあいだでも泰章さんの奥さんになれて、嬉しかったんですから」

「史織……」

 誤解は解けたのだ。もう史織が、責任をとるという形で泰章の妻でいる必要はない。

 きっと、無罪放免でこの家を出ることになるだろう。泰章の妻の役もこれで終わり。

 胸がぎゅうっと締めつけられて切なさが湧き上がってくる。考えたら泣いてしまいそうで、史織は無理やり話題を変えた。

「教えてください。もしかして、母の居場所が、わかったんですか?」

 泰章が頷く。期待を込めて彼を見ると、握った手を握り返され彼と一緒に立ち上がった。後を追って薫も立ち上がる。
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