いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
 先日といっても二週間も前の話だが、福田が泰章に報告したのだろうか。告げ口するようで気まずいと思い、史織はなにも言っていない。

「それにしたって、わざわざ『誘われて迷惑だった』とか文句を言うなんてね。そのせいでお食事会も気まずかったわ」

「わたしは……」

 史織が言いつけたと誤解をしている。泰章がどんな注意をしたのかは知らないが、このくらいは言い訳してもいいだろう。

 しかし、史織は口を出すことができなかった。

「ああっ、もう、選ぶの面倒っ。どうせ味なんてたかが知れてるし、任せるから、一番大きな箱に入るだけ詰めてちょうだい」

 まとめ髪がため息をつきながらさじを投げる。告げ口したと史織に嫌味を言いたかっただけで、ケーキは二の次という雰囲気だ。

 それでも注文が入ったのだから黙って立っているわけにもいかない。史織はすぐに中へ入り、一番大きなケーキボックスを用意した。

 入江がいないせいもあって、今日は種類も数もわずかだがいつもよりは少ない。全種類を入れ、余裕が出た場所に収まりやすいものを入れていった。

「こちらでよろしいですか」

 詰めたものを見せると、ふたりは初めて見る笑顔を作る。

「あら、綺麗ね~。いいじゃない」

 まとめ髪がカウンターにカードを置く。「早くね」と急かされ、史織も極力急いで用意をした。

「お待たせいたしました」

 商品を入れた紙袋を持ってカウンターの前へ出る。一番大きなボックスを使っているので重い。慎重に紙袋の持ち手と底を支えて差し出した。

「ありがとうございます。こちら、重くなっておりますのでお気を付けください」

「わかったわ」

 まとめ髪が片手で持ち手を掴む。しっかり持って受け渡しが確認できたタイミングで手を離す。が……。

 次の瞬間、ケーキを入れた紙袋は叩きつけるように落ち、床を滑ったのである。

「あ……!」

「ちょっと! なにやってるのよ!!」

 空気をつんざくような怒鳴り声。店内の視線が一気に集中する。

「こっちがちゃんと持たないうちに手を離すとか、なに考えてるの! なんのいやがらせ!?」

「いえ、そんなつもりは……」

「なによ、こっちが悪いとでも言うつもり!? あんたが落としたんじゃない!」
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