いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
「どうされました?」

 怒鳴り声はバックヤードまで聞こえたのだろう。純子が飛び出してきた。

 責任者が出てきたとわかったのか、叔母ふたりは同じように腕組みをして史織を睨みつける。

「そこの子がケーキの箱を落としたの。せっかくたくさん買ってあげたのに」

「はるばるこんなところまで来てあげたのに、こんないやがらせをするなんて、母親の顔が見てみたいわ」

 母親、のところだけ強調され、反論の声が出そうになるがぐっと呑み込む。とにかく店内でこれ以上騒ぎを大きくするわけにはいかない。

 純子は床に落ちてひしゃげた袋を見つめ、ふたりに向き合った。

「お言葉ですがお客様、当店のスタッフには、いやがらせのためにケーキを落とすなんてことをする者はおりません」

 史織は目を見開く。当然ふたりは石を投げられた野良犬のように喰ってかかった。

「なんですって! 店員が馬鹿だと責任者まで馬鹿なの!? この店は!」

「そこの女が落としたって言ってるでしょ! 客の言うことより使用人の言うこと信じてどうするのよ! これだからレベルの低い店はいやなのよ!」

「違います! 史織さんは落としてません!」

 声をあげたのは由真だった。補充用の焼き菓子が入った籠を持ったまま、純子に訴える。

「渡された人、そこの髪をまとめたオバさんが、受け取ってすぐ袋を落としたんです! あたし、ずっとここで見てた!」

「お、オバばさん……?」

 呼びかたが気にくわなかったのだろう。まとめ髪は目を三角にして由真を睨みつけた。

「ほんっと、程度の低い店には馬鹿しかいないわね! こんな店潰してやるから!」

「國吉さんが作ったケーキまで馬鹿にして、こんな人たち、お客さんじゃないです!」

 由真は本気で怒っている。しかし怒りに震えたのは叔母ふたりも同じ。ふたり同時に靴音も高らかに由真に向かうと、エアリーボブが勢いよく手を振り上げた。

 とっさに史織は由真の前に立ち塞がる。由真に振り下ろされた手は史織の左頬を打つ。パシッと肌を弾く音がして、左頬が熱くなった。

「史織さん!」

 急いで立ち塞がった勢いもあって、その場に膝を崩し床に手をついた。

 しかしすぐに飛び起きて立ち上がり、由真の前に立つ。

「お店で騒ぎはご遠慮ください。もともと、わたしにだけ言いたいことがあるのだと思いますので、後日お聞きしま……」
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