偽装結婚の行く末
「渡したいもの渡したし、もう帰る」

「帰るの?今来たばっかなのに」


下手くそな愛想笑いを浮かべて背を向ける。
だけど律の心配そうな声がして立ち止まった。


「地元に帰ってきたから、この後友達と遊ぶ約束してるんだ。じゃあね」


笑顔で嘘をついて玄関に向かう。
靴を履いて玄関のドアを開こうとした瞬間、その手を押さえつけられた。


「美優」


なんでこういう時に限って後を追ってくるかな。
見上げると昴が真剣な顔で覗き込んできた。
ただ、その表情の奥の心境は分からなかった。


「一緒に帰ろう」

「なんで来たの?結局あんたが褒められたじゃん」

「美優は説明下手くそだから勘違いされてただろ」

「あんたはいいよね、世渡り上手でチヤホヤされて」


ため息とともに愚痴を吐き出す。
昴は少し手の力を抜いたけど、その手を離してはくれない。


「あんたじゃない。俺は昴」

「……だから何?」

「なんで怒ってんだよ」


分かってる、こんなのただの八つ当たり。
これ以上は本当に口論になると思って視線を外した。
まだ家の中だから律に聞かれたくないし。


「頭冷やしたいから電車で帰る」

「分かった」


珍しく物分りのいい昴は手を離してあたしを見送る。
ちょっとさみしそうな顔してなんなの?
たかが偽物の婚約者相手に変なやつ。
< 44 / 182 >

この作品をシェア

pagetop