偽装結婚の行く末
キスされたと理解して、驚いて言葉が出ない。


「なんだよ、その顔」


至近距離で笑う昴の吐息がかかる。
あたしはビクッと肩を震わせるだけで抵抗できなかった。

だって嫌だと思えない。
昴のこと、ずっと昔から好きだったから。


「変な顔」

「……んッ」


それに分かってたけど、こいつ上手い。
舌を絡ませるキスをしながらお腹をゆっくりとなでる。
焦らすみたいな指先がもどかしい。
気持ちいいところを触って欲しいって思ってしまう。


「あっ……やめて」

「そんな甘い声出してんのに“やめて”?」

「んんっ、やっ……」


服を着てないから身を隠すものがない。
そのせいで胸に触れられただけなのに声が出てしまった。
ダメだ、しっかりしないと。
だけど溺れてしまいそうな理性は快感に身を委ねようとしている。


「いつも騒がしいくせに、こういう時だけ大人しいのすっげーかわいい」

「……うるさい」


昴の言う通りだ。
今までもこうやって流されて、結局誰の一番にもなれなかった。
もう都合のいい女にはなりたくない。

昴相手なら尚更苦しい想いはしたくない。
こうやって廃れた関係になるくらいなら、偽装結婚なんて馬鹿げた話、断っておけばよかった。
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