内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました

 その日の仕事帰り。
 食事がてら友人の店に向かった。

 店の名は『氷の月』。
 扉を開けるとカウンターにいた友人、氷室仁が振り返り、笑みを浮かべて片手を上げる。

「いらっしゃい」

 ここ氷の月は、彼が友人とのひとときを楽しむためだけにオープンした会員制のレストランバーである。

 氷室家はいくつもの会社を経営する一族だ。彼自身もたくさんの肩書きがあるという、生まれも育ちも生粋の御曹司だが、不思議と気が合う。
 こっちの世界に来て最初にできた友人だ。

「どーぞ」と、仁が隣の席を促す。
「飯か?」

「ああ。しばらく通う」

 マンションで過ごす夜は、ここに食事に来ると決めている。

 現在夜十時。この時間に気軽に行けて美味い食事にありつける店は、ほかに知らないし。

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