内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 悠は当然のように自転車をもとの位置に戻し、私の手を握る。

 この季節の五時過ぎは暗いから目立たないとはいえ、シルKUはすぐそこだ。

「ねぇねぇ悠、まずいでしよ? 社員さんに見られちゃうよ」

「どうして? 見られても別にいいよ?」

 いいって言われても。

「でも、頭取のお嬢様と縁談があるんでしょ? 昨日――」

 イベントに来ていたじゃない。

「ああ、彼女ね。でもあの縁談は断るつもりだから」

「どうして? すごく美人でお似合いなのに」

「じゃあ千絵は、イケメンなら誰とでも結婚できる?」

 ウッと言葉に詰まる。

 悠の結婚相手は私が決めるわけじゃない。悠が決めるんだ。

 彼女がどんな女性かも知らずに、見た目だけで言っても説得力なんてないだろう。

「ごめんなさい。余計なお世話だった」

 ちらりと振り向いた悠が、フッと微笑む。

「とりあえず罰として夕飯作って」

「えっ、そんな」

「明日休みでしょ。嫌なの?」

「はい。わかりました」

 ここで突き放せたら違うんだろうとわかっている。でも……。

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