やわく、制服で隠して。
「なつめ」

「…え?」

デジャブだって思った。
今朝と同じ。深春は全く同じ状況で、私を見下ろして言葉を落としてくる。

入学式が終わって、先輩や先生達を残して新入生が体育館から退場した。

そのまま押されるように教室までぞろぞろと新入生が流されていて、廊下は密集していた。

深春の姿を見つけることができなかったから、私も同じように教室まで流された。

教室には中学からの同級生なのか、それとも早速友達になったのか、既にいくつかの”輪“が出来ていて、私はそれのどこにも属していない。

違うクラスになら、中学から一緒の子も居る。
クラスは離れてしまったし、それを寂しいとも思わなかった。
それは多分、お互い様だ。

その輪の中に居れば一人にならずに済むから。
“それなり”の学校生活を送れるから。
惨めにならずに済むから。
“友達”と呼べる人がいる。そう思うことで安心していたのも事実だ。

きっと私に対しても。
本当に心の底から大切だと思ってくれていたかって言うと、きっと違う。

ナメられないように髪の毛を明るい色に染めたり、ピアスの穴を開けて、可愛く見られる為にメイクをする。

授業態度だっていい加減だから、いつも教師に説教を食らう。
休み時間には教室の真ん中で誰よりも騒いで、放課後は繁華街で他校の男子や大学生とツルむ。

私はみんなとは違う。
そう思うことで優越感を保っていたし、けれどそのグループの中の誰もが本当は疲弊していた。

中学生のクセに、そういう生活が自分に見合ってるなんてきっと誰も思っていなかった。

だけどそういう生活を辞めることで、周りの評価が下がることにも怯えていた。
本当は誰も評価なんてしていない。
キラキラした世界だと思っていたのは自分達だけで、本当はカッコ悪いって思われていたのかもしれない。

それでもどうにか作り上げた“カースト上位”の世界を手放すことは惜しかった。
自分には、本当はなんにも無かったから。

だからなのか、暗黙の了解って感じで、誰も高校の志望校の話をしなかった。
たまたま同じ学校になった子も居るけれど、受験の日、合格発表の日、今日だって、廊下ですれ違って目が合えば僅かに笑い合うだけだった。

今、既に出来始めているグループの中の誰も、私には声をかけてこないし、私も自分からは声をかけられない。

この中の誰なら私を受け入れてくれるのかも分からない。
それなのに…。

「なつめ。」

他人に興味なんて無さそうな目をしているのに、興味のあることには黙っていられないって感じで、今朝から私はターゲットにされているらしい。

そして私も。
その声が、目が、また私に向けられて嬉しいって思っている。
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