椅子こん!
コクる



「って、何気なく聞き流したけど、あなた、病気なの?」
私が思わず率直に聞くと女の子ははにかみながら頷いた。
「うん……普段は発作が出ないようにしてる」
あの薬ケースは、あの子の、それを抑えるものだったのだ。
「そっか……」
気付いていたらすぐに届け──られはしないか、コリゴリやキムと戦わなくてはならなかったのだから。
「あのときは、ありがとう」
「うん……」
女の子が少し恥ずかしそうに首肯く。
「……でも、スキダに体力、なくて、あまり、助けてあげられなくて」

「いいの──私は、悪魔なんだから。
誰にも映らないし誰にも関わらない私に気を遣わないで。
みんながそうしてるのに、変だよ?」

 恩義でも感じてるんだろうか?
悪魔に気軽にそんなことをしていたら、憑かれてしまうかもしれない。
みんなのように、排除しようとしないのは変なことだった。私が違和感を口にすると、女の子は曖昧に頷いた。
あ……そっか、悪魔だなんて自分で言うから引かれちゃったかもしれない。

 それに恩など感じなくても、そりゃ嫌なこともあったけど、聞いて欲しい。

「今、私は夢みたいな時間を過ごしているの」

「えっ──」

もしあなたが現れなければ、一生私に機会が訪れなかった幸運。

「ほら、椅子さんとも会えたし」

────それに、なななんと!
「観察されないでちょっとの時間過ごして見たかった」という夢が叶っている。
生まれてからずっとかなわなかった夢が!
少なくともあのファックスは届かないし、変な番組を見せられたりしない。
沢山のスキダに絡まれたりしない。
果たして、こんなことがあっても良いのだろうか?
悪魔が、こんな幸せな夢を、見ても良いのだろうか?
あまりに幸せ過ぎている気がする。
ここ最近までの人生で一番の幸せかもしれない。ちょっと怖いくらいに。
「──私ね、今が、今でもまだ、信じられないほど幸せなんだ。だからお互い様、ねっ?」

女の子はきょとんとした。
「わかった」

「アサヒ──」
私はアサヒに声をかける。
「もう少し、嫁市場の話が聞きたい」

アサヒが何か言おうとしたときだった。カグヤがおもむろに壁の時計を見上げながら立ち上がった。
「あ──ごめぇん、みんな、夜バイトあるから……支度したいんだけど」

「そうか」
アサヒが慌てて身体をずらしてドアを開けられるようにする。
「って、あぁ……! 洗濯物……!
ちょっと下行ってくる、話してて~」
 彼女は何かに気がついたように廊下に出て階段を降りていく。私は何となく、彼女の背中に何か感じた。
「アサヒ」
「アサヒ」
女の子も、私と同時にアサヒを呼んだ。
どちらも真剣な声音だ。アサヒは何か察したのか「俺が」と短く返事をして、階段を降りていく。ぞろぞろ降りても変だ。
だけど……だけど……。
「アサヒ、私も! 椅子さんが気になるの」
「お姉ちゃんが行くなら、わたしも行く」

三人で、ひとまず、家具屋に続く部屋に向かうという口実、半分本気だけど、それを持って、そーっと階段を降りることにした。
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