カクレンボ
長い冬

自覚は誰もしていない

(はな)、帰るよ」

 いきなりわたしの名前を呼ばれて焦った。

 そんなわたしを見てクスリと(ゆき)の笑い声が聞こえた。
 
「う、うん!」

 浅く頷いてからそう言い、席を立ち上がる。

 少し首を上げれば、口角があがった雪の優しい笑顔が目に入る。

「おーい雪、早く行くぞ」

「今行く」

 教室の外から(そら)の声が聞こえた。

 視線をもっていくと空の横に立っている(さくら)もいた。

「じゃ、帰りますか!」

 桜がそう言い先頭を歩き始めた。


 12月となればマフラーと手袋があっても体の芯から冷えてくる。おまけに今日は雪も降っている。

「期末やばかったんだが…」

 空ががくんと首を曲げて言う。

「雪と華は期末どうだった?」

「雪がいいのはもう分かりきってるよな」

 空が雪の肩を叩きながら言う。雪は学年の中でも五本の指に入るくらい頭がいい。受験のときも自分の勉強をしながら、わたしたち3人に教えるくらいの秀才だ。

「華は?どうだった?自信無いとか言ってたけど」

「割とできたよ。平均も74点だったし。満足かな」

「いやー高いね」

「雪平均点88点だってよ!すごいだろ!」

「なんであんたが自慢するのよ」

 空が雪の肩を叩きながら笑っている。
 
 それにしても88点ってすごい。わたしの最高平均より全然高いし、多分雪も今回の点数には満足いってないはずだ。

「あれ?今回は90のらなかったの?珍しい」
 
 感覚が狂っている…。

 でも確かに雪が平均90点に乗っていないのは珍しい。

「英語が足引っ張っちゃって…」

「何点?」

「79点」

「今回なら華のほうが高いんじゃない?何点?」

「83点」

 雪は英語が苦手だ。わたしは全教科満遍なくできて、特に英語には自信がある。

「すげえ!大金星じゃん!」


 雪に点数で勝てるときが来るなんて。

 空が自分のことのように喜んでいる。わたしも内心ものすごく嬉しい。はじめて…かな。

「すごいね華!」

「次も勝つからね!」

「負けない!から」

 わたしは雪に微笑みながらそう言うと雪も微笑んで言ってきた。

「それよりよー雪、今日夜そっちで食べてもいいか?」

 話を遮って空が言う。

 北風が吹き両腕をさすりながら小刻みに震える体をわたしは必死に抑えている。

 空は寒がるどころか手袋もマフラーもしていない。極度の暑がりなのだ。

 対してわたしは見てわかる通り、極度の寒がりでそのうえ冷え性。しょっちゅう霜焼けになってしまう。

 冬はそんな空が羨ましいけど、夏は暑がりにとって結構しんどそう。

「今日?いいけど」

わたしの前のふたりが淡々と会話のマスを進めていく。

 

 
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