カクレンボ
 少しすると、ブクブクと音が聞こえてきた。

 この落ち着かない感じに慣れない。

 あの沸騰の音が落ち着いても、この胸が落ち着くことはないのかもしれない。この感情の名前って……。

「お待たせー」

 ブクブクと音がしてからまた数分待っていると、雪君が私のココアを運んできてくれた。

「ありがと」

 そして私の向かいに座った雪君は、1度パソコンを閉じて私との間の障壁は、完全になくなった。正真正銘、向き合っている。中々口を割れずにいた私に、雪くんは重たい口を更に重たくするようなことを言ってきた。

「華、恋ってわかる?」

「……」

 恋、私の知らない感情。でもなぜだか、今はそこに手が届きそうな気がしている。私の恋路が、開かれているような不思議な感覚。空くんもさくらちゃんからは私が雪くんのことを好きって見えているらしい。

「桜ちゃんと空くんなら、わかるかも。あの二人付き合ってるし」

 言ってから少し後悔した。もしかして雪くんは2人が付き合っていることを知らないかもしれないから。案の定、雪くんは意表を突かれたような顔をしている。

「ごめん、知らなかった?」


「んん。逆。華知ってたんだなって」

「雪くんも知ってたの?」

 私は年明けてすぐに、桜と遊んだ時に聞かされた。雪くんはいつ知ったんだろう。

「桜に今日。……いやもう昨日か」

 今日ねえ……。ふーん……

「今日?!」

 新鮮な情報。もう3ヶ月くらい経つのに。私は思わず前傾姿勢になって声を上げた。

「桜に元旦の日に告白したって聞いてた。いつかはそうなるってわかってたから」

「わかってた…?じゃあ雪くんは空くんから相談されてたってこと?」

 雪くんは、首を横に振った。そしてココアをひとくち飲んでからその答えを言った。

「全くだよ」

 相談されてないのにわかったって…?ずっと前に言われてたから?それとも勘?雪くんは観察力あるから見抜いてたのかな。

「そもそも、男女に友情は成立しないと思ってる」

「男女の友情……。でも私達は成立してる。空くんとも。雪くんは桜ちゃんとだって」

「確かにそうだけど。でも、隠してない保証はないよ」

 なんだか、心に矢が刺さったような感覚。私は対抗する言葉を持てなかった。変えることが怖い関係。このままでいたい関係。それはこの4人誰しもが持っている心。破壊も進展も望んでない。ただ4人で集まって楽しく笑うだけで、私達の幸福は満たされる。

「同性でも友情なんて成立しないのに……」
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