とある高校生の日常短編集
真似っこ女子
「おはようございます、お姉様」
「あ、おはよう、六花」
 朝の教室にて。いつものように挨拶を交わすすみれと六花。
「今日もお姉様は見目麗しゅうございますぅ……って、あら?」
 こちらもいつものご挨拶……かと思いきや、ふと六花がある物を見つけて首を傾げた。それは、すみれの髪につけてあるシュシュである。
「あ、気がついた? 昨日たまたまお店で見つけたんだけど、一目惚れして買っちゃったんだ!」
 そういって、えへへと笑うすみれ。すみれの髪は長く、普段はいわゆる「サイドテール」と呼ばれる、左耳の上でポニーテールを作る髪型をしているのだ。普段はヘアゴムだけなのだが、今回はお店で一目惚れしたというシュシュをつけている。
「まぁ、薄紫色のきれいなシュシュですぅ!」
「ありがとう。これ、中にパールが入っているんだよ」
「まぁ!」
 すみれはそう言うと、シュシュを外して手の上に乗せ、六花に見せた。確かに、パールが薄紫色のメッシュ生地の中に輪っかのように並んでいる。
「可愛らしくてお上品……お姉様にぴったりのシュシュです!」
「ふふっ、ありがと」
 すみれは六花にお礼をいうと、再度シュシュを髪につける。すると、他のクラスメイトの女子が話しかけてきた。
「ねぇ南雲さん! そのシュシュ、どこで買ったの?」
「すっごい可愛いね!」
 いきなり尋ねられて、一瞬戸惑うすみれ。しかし、すぐに笑顔に切り替えて。
「これ、駅前のショッピングセンターの2階で見つけたんだ」
「え? 2階のどの辺?」
「えーっと、パン屋さんの近くのエスカレーターから上がって――」
 わいわい女子に囲まれて話すすみれ。そんな彼女を、少し離れたとこから聞き耳を立てている女子生徒が一人いた。
「へぇ……あのお店で買ったんだ……」
 ちらっとすみれの様子を見ながら聞き耳を立てているのは、クラスメイトの朴(パク)という女子。ちなみに、外国人を彷彿とさせるような名字だが、彼女は生粋の日本人だ。
「おはよう、すみれ。朝から賑やかだね」
「あ、悠貴。おはよう」
 他のクラスメイトの女子が立ち去った頃、悠貴が顔を出した。すると、六花が悠貴を睨み付ける。
「朝からわたくしのお姉様に、何かご用です?」
「いや、なんで朝の挨拶しただけで睨まれなきゃならないんだよ……」
 いつもと変わらない六花の態度に、溜め息をつく悠貴。すると、すみれが「毎度の事じゃん」と笑った。
「まぁいいや。それより……って、あれ?」
 ふと、悠貴が首を傾げる。すみれが何事かと彼を見上げると、悠貴は彼女の髪を指さした。
「今日のヘアゴム、随分と大きいね」
「あ、これ? 意外にも気がついたんだ」
「意外とは何だ、意外とは。つか、そんだけ大きいと目立つし」
 むくれる悠貴をよそに、すみれはまた先ほどのシュシュを外そうと髪に手をやった。
「あ、いや、別に外さなくても――」
「大丈夫。別のヘアゴムで縛った上からつけてるから。はい、これ」
 慌てて止めにかかる悠貴をやんわりと制し、彼の前にシュシュを差し出す。
「これ、シュシュって言うんだよ。可愛くて一目惚れしちゃったんだよねぇ!」
 にこにこと嬉しそうに話すすみれ。一方の悠貴は、「ふぅん」と薄い反応。
「ちょっと会長様。折角お姉様がわざわざ髪から外してまでお見せしたというのに、そのうっすーーーーい反応は何なんです?」
「え? そう?」
「本当、これだからチキン会長は――」
「はいはい、六花、ストップ。悠貴は男子なんだから、あんまりこういうのに興味ない訳だし、仕方ないでしょ」
 いつも通り、悠貴に毒舌(もはや悪口?)を吐こうとした六花だったが、すみれに止められて渋々口を閉じた。
「まぁ確かに、そういうアクセサリー……っていうのか? そういうの、男にはあんまり縁が無いって言うか、俺なんか割と無縁だからな」
 悠貴がそう言うと、すみれは「でしょ」と笑う。
「でも、まぁ、その……それ、すみれっぽくていいんじゃん?」
「シュシュ?」
「そう、それ」
 六花に言われたことを気にしたのか、それとなく褒める悠貴。すると、すみれは「ありがとう」と笑顔で返した。
「ふぅん……」
 そんな三人の様子を、聞き耳を立てつつ横目で様子を見ていた朴だった。



 翌日。いつも通り登校したすみれは、いつも通り教室に入って支度をする。すると、一人の女子生徒が声をかけてきた。
「おはよう、南雲さん」
「あ、おはよう、朴さん」
 声をかけてきたのは、昨日、すみれたちの話を聞き耳を立てて聞いていた朴という女子生徒だ。
「昨日、南雲さんがつけていたシュシュ……」
「あ、これ?」
「そう。昨日、ちらっと見えたんだけど、可愛かったから私も買ってみたんだ」
 そう言って、肩から流している髪を手でとかす朴。すると、その髪の先にはすみれと同じ、あの薄紫色のシュシュがついているではないか。
「わぁ! 朴さんも似合ってるよ! 可愛いね!」
「ふふ、ありがとう」
 朴はお礼を言うと、ふとすみれの鞄についているマスコットを見つけた。
「このぬいぐるみ……」
「あ、可愛いでしょ? これも一目惚れして買っちゃったんだ~」
 そういって、鞄を机の上に置き、マスコットを手に取って見せた。
「これも、シュシュと同じお店で?」
「ううん。これは、3階のファンシーグッズ売り場で。たまたま六花に連れられて行った先で見つけたんだ」
「ふぅん……」
 そういって、何かを考え込むように黙り込む朴。すみれは首を傾げた。
「あ、ごめんね、どこのお店だろうって思っちゃって。それより、それも可愛いわね」
「えへへ、ありがとう」
「私も探してみようかな」
「あ、いいと思うよ! 色違いもあったから、好きな色にしてみても良いんじゃないかな?」
「ありがとう、探してみるわ」
 朴はそういうと、すみれから離れて行った。



 また翌日。
「あら? お姉様。シュシュをお変えになったんです?」
 六花が朝一挨拶に来て、首を傾げた。昨日まではパール入りの紫シュシュだったが、今日は紫のリボンがついたシュシュになっていたのだ。
「そう。これ、昨日部屋からぽろっと出てきて……可愛かったから、気分転換かねてつけてきたんだ」
「そうだったんですね。とってもお似合いですぅ、お姉様!」
「ありがとう」
 両手を握り合わせて言ってくる六花にお礼を言うすみれ。すると、そこに朴がやってきた。
「ねぇ、南雲さん」
「あ、朴さん、おはよう」
「おはよう。昨日のマスコット、見つかったんだ」
 朴はそういうと、昨日話題に上がったマスコットを見せた。色もすみれと全く同じ物である。
「わー、同じ色にしたんだ! あのショッピングセンターに売ってたの?」
「うん。何となく立ち寄ってみたらあったから」
 朴はそういうと、すみれの髪留めを見つけて目を丸くした。
「あれ、南雲さんの――」
「すみれー」
 朴の声を遮って来客が現れた。悠貴と副島だ。
「あ、悠貴、副島君。おはよう」
「おはようございます、皆さん」
「おはよう。あれ? もしかして髪飾り、変えた?」
 早速悠貴が指摘する。すると、すみれは嬉しそうに笑った。
「あ、気がついた? 昨日部屋から出てきた奴でさ」
「え、何それ。買ったけど放置されていた系の奴って事?」
「いや、何回か使ったんだけど、どっかに紛れていたみたいで」
 シュシュでわいわい盛り上がるすみれと悠貴。そんな二人を、朴はじっと見つめている。
「ちなみに、さ……悠貴的には、どっちのシュシュがいい?」
 ふと、すみれが悠貴に向き直って尋ねる。すると、悠貴は「え?」と固まった。
「えっと、そうだな……どっちも良いとは思うけど……」
「あら、優柔不断ですこと。お姉様の質問には白黒はっきり答えてくださいな、軟弱会長」
「ぐっ……朝っぱら辛辣……」
 六花が「ふん」と言わんばかりに毒を吐く。すると、悠貴はゴホンと咳払いをした。
「ま、まぁ、俺はすみれの好きな方でいいとは思うけど……まぁ、強いて言うなら、今日のやつの方が……まぁ、その……い、良いんじゃん?」
 少し気恥ずかしいのか、も視線を泳がせながらもぞもぞと話す悠貴。しかしすみれは、ぱあっと明るい笑顔を見せた。
「本当?」
「あ、あくまで俺個人の意見だけどな。和春はどう思う?」
 逃げるように、副島に話を振る悠貴。すると、副島はにっこりと笑って。
「俺はどちらもお似合いだと思いますよ」
 と、一言。悠貴は副島を横目で睨んだ。
「……上手いこと逃げやがって……」
「ですが、國松に”優柔不断”と罵られたくはないので、あえて明言すれば……俺も、今日のようなリボンタイプのシュシュの方が、南雲さんらしいと思いますよ」
 悠貴の睨みなんて何のその。そんな勢いで話し続ける副島。すると、すみれは「ありがとう」と、こちらもまた笑顔で返した。
「それで――」
 すみれが話題を切り替えようとしたとき、予鈴がなった。
「あ、チャイムだね。席に戻らないと」
 悠貴がそういうと、その場に集まっていたメンバーは各々の席に戻っていった。程なくして担任が教室に入ってくる。
(良かった……悠貴、こっちのシュシュの方が好みなんだ……)
 担任がホームルームで話している最中、すみれは先ほどの会話を思い出して、一人口元を綻ばせていた。



 お昼休みになった。今日は教室で食べると言うことで、すみれ、六花、悠貴、副島と机をくっつけてお弁当を広げる準備をしていた。
「あら、お姉様。お弁当箱を新調なされたんです?」
 隣に座っている六花が、すみれの弁当箱を見てそう尋ねる。すると、悠貴と副島の視線がすみれの弁当に向いた。
「本当だ。なんか、随分真っ白い弁当になったな……」
 悠貴がそういうと、隣で副島が溜め息をついた。
「それって、”しまえながちゃん”のお弁当箱ですね?」
 副島が言うと、すみれが「ぴんぽーん!」と笑顔で返す。
「そうなんだよ! さっすが副島君! 悠貴とは違うね!」
 すみれの言葉に、悠貴が「どういう意味だよ」とむくれる。すると、副島がこっそり悠貴に耳打ちした。
「最近の南雲さんのアイテムが、ほとんどこの”しまえながちゃん”グッズに変わっていると、以前報告をあげたと思うのですが」
 この話に、悠貴は「え?」と声を上げて副島を見る。すると、副島は「やっぱり忘れていたか」と溜め息をついた。
「あ、そういえば、そんな事言っていたような……」
「……しっかりしてくださいよ……」
 誤魔化して笑う悠貴をみて、三度目の溜め息をつく副島。するとそこに。
「あ、すみぽよ。そのお弁当ってさ、もしかしなくても”しまえながちゃん”弁当?」
 ひょっこりと、乗山が顔を出した。
「あ、乗山君。そうだよ、よく知ってるね」
「俺も最近知ったんだけど、なんか最近、地味ぃに流行っているらしいね」
 乗山はそういうと、改めてすみれの弁当箱をまじまじと眺めた。
「それにしても可愛いね、このしまえながちゃん弁当。中身もしまえながちゃんなの?」
「いや、中身は流石に違うとは思うけど……」
 すみれはそう言うと、弁当箱の蓋を開ける。すると、白米の部分が海苔のデコレーションにより、シマエナガの顔になっていたのだ。
「え、マジか――」
「うおぉ! すみぽよの弁当、すげぇ!」
 すみれの声を遮るように大声で騒ぐ乗山。すると、そこに人が集まってきた。
「ちょっとノリー、いきなり大声出さないでよ~」
「いやだって、見ろよこの弁当! 中身も外見もしまえながちゃんなんだぜ?」
 乗山がそういうと、集まってきた女子生徒がすみれの弁当をのぞき込んできた。
「あ、いや、そんな大層なお弁当じゃ――」
「うわ、本当だ! 白米がシマエナガだ!」
「てか、おかずの配置、きれいじゃね? なんか、シマエナガが木にとまっているような……」
「キャラ弁というか、写真みたいなお弁当だね! 可愛い!」
 わいわい周囲で騒がれて、慌てふためくすみれ。
「てか、弁当入れまでシマエナガなんだね!」
「この水筒もシマエナガだよ? 南雲さん、こってるねぇ!」
「あの、えっと、その……!!」
 どんどん盛り上がっていく周囲。すれみがどうしようかと思った時、悠貴が咳払いをした。
「盛り上がっているところ、申し訳ないんだけど……そろそろご飯を食べても良いかな?」
 悠貴がそういうと、周囲で騒いでいたメンバーがピタリと止まる。
「あ、ごめんね! 南雲さん! ご飯時なのに、ウチら騒いじゃって……」
「また今度、お弁当見せてよ!」
「う、うん……」
 こうして、嵐のようなメンバーは立ち去っていった。
「……はぁ、どうなるかと思った……」
「大丈夫です? お姉様」
「うん……ありがとうね、悠貴」
 すみれがお礼を言うと、悠貴は「どういたしまして」と笑顔で返す。
「でも、確かにお姉様の今日のお弁当は可愛らしいですぅ! しまえながちゃんお弁当にしまえながちゃんお弁当袋、しまえながちゃんランチョマットにしまえながちゃん水筒……はっ、お箸入れまでしまえながちゃんなんですね!?」
「あの、ごめん六花……そんな大声で片っ端から言わないで欲しいかな……」
 こうして、四人でわいわい食事を始めた一行。それを朴が教室の端から見ていることなどに、気がつくこともなく……



 翌週。
 お昼休みになり、また教室で食べようとすみれ、六花、悠貴、副島と机をくっつけて弁当を持ち寄る。すると、そこに朴が現れた。
「あ、朴さ――」
 すみれが挨拶しようとしたが、朴の姿を見て言葉を飲んだ。何故なら、朴の髪型が変わっていたからだ。いつもは一つにしばって肩から髪を流しているのだが、今日はサイドテール……つまり、すみれと同じ髪型になっていたのだ。しかも、つけているシュシュも、今すみれがつけているリボンタイプのシュシュに変わっており……
「あのね、私もお弁当、変えてみたんだ」
 朴はそういうと、自分の弁当を差し出してきた。すると、そこには何と、すみれと同じしまえながちゃんのお弁当箱があり……
「……あ、そ、そうなんだ! 可愛いよね、しまえながちゃん」
 表情筋を若干引きつらせながら、話を続けるすみれ。
「しまえながちゃん、本当に可愛いよね! 私もファンになっちゃった!」
 ルンルンで話す朴に、すみれは「う、嬉しいな~」と苦笑い。
「後ね、水筒とかもしまえながちゃんにしてみたんだ。ほら」
 そういって朴が持ち出した水筒は、すみれと全く同じしまえながちゃん水筒で……すみれはついに絶句した。
「流石に中身は上手くいかなくて……でも、白米の部分はしまえながちゃんにしてみたんだ」
 しかし、朴は気にせず続ける。弁当箱をぱかっと開けると、確かに白米の部分が海苔を用いたしまえながちゃんになっていた。
「わ、わー! す、すごい器用だね、朴さん!」
 やっと言葉が出てきたすみれ。すると、朴は満足げに笑って見せた。
「ふふ、ありがとう。それじゃ」
 そして、満面の笑みで立ち去っていった。
「……ねぇ、何あれ」
 朴がだいぶ離れた頃、悠貴がひそひそ声ですみれに話しかける。すると、すみれはぐったりとした顔を見せた。
「何かよく分かんないけど……朴さんに色んな物を真似っこされているみたいで……」
「シュシュと髪型まで、お姉様に揃えてきていましたわね」
 六花も不可解という顔で話に加わる。
「まぁ、しまえながちゃんファンが増えるのは純粋に嬉しいんだけど……なんか、こう……何か違くね? 的な……」
「あー……うん。何か分かる、それ」
 机の上に突っ伏すすみれ。悠貴がよしよしと彼女の肩を優しくぽんぽん叩いた。
「何故あそこまでして、お姉様にこだわるんです? そこが不思議です」
 六花がそういうと、悠貴もすみれも頷いた。
「そこなんだよね……しまえながちゃんシリーズはともかく、髪型とかシュシュとかは、ちょっと異常って言うか……何か別の物を感じるって言うか……」
 悠貴がそういうと、すみれがうんうんと頷いた。
「まぁ、これ以上被害がでなければ、そっとしておいても良いのかな……とは思っているけれども……」
「……多分、まだまだ続く気がするなぁ……」
「だよねぇ……」
 悠貴の同意に、すみれはまたぐでっと机の上に突っ伏した。



 放課後になった。
 悠貴は副島と共に、生徒会室で業務をこなしていたのだが。
「なぁ、和春」
「はい、何でしょう」
 悠貴が一段落したところで、副島に声をかけた。
「最近のあの人……えっと、朴さん、だったよな?」
「もしや、南雲さんの真似をしていらっしゃるお方ですか?」
「そうそう。その事なんだけど……」
 悠貴の表情が険しくなる。副島は、悠貴の隣に移動した。
「あれ、どう思う? どう考えても異常としか思えないんだけど、あの行動」
 悠貴の話に、副島は「ふむ」と考え込む仕草を取る。
「確かに、あそこまで何もかも真似をするのは異常といいますか……朴さんの、南雲さんに対する、異様なまでの執着を感じる、と申しますか……」
「執着、か……」
 副島の話に、悠貴は机に肩肘をついて頬杖をついた。
「……あそこまでして、すみれの真似をするメリットは何なんだ? 俺的には、何のメリットもないように思えるんだが……」
 悠貴がそう言うと、副島が姿勢を正した。
「……実を申しますと、その件については既に動いておりまして」
「え?」
 悠貴が頬杖を崩して副島を見る。
 実はこの高校の生徒会、会員のほとんどが悠貴の父親率いるヤクザ”玄武組” の組員の息子・娘なのだ。しかも、意図して悠貴や副島が集めたわけではなく、本当に偶然にも集ってしまった訳なのだ。そして、副島がその立場を上手く利用し、時に生徒会員を密偵のように裏で操作し、情報収集などを行っているのである。
「お前、いつの間に動いていたんだよ……」
「といっても、今朝からですけれども。ご報告は早くて明日の放課後、遅くても明後日の放課後にはできるかと思われます」
 副島の、正に組織のNo.2のような、ボスの右腕のような働きっぷり。実はコレにも悠貴達の実家が深く関わっている。副島の父は玄武組頭である悠貴の父親の右腕であり、実質のNo.2。故に組ではいつも、頭の右腕としての仕事をこなしており、そんな父の背中を見て育った副島もまた、こうして頭の息子である悠貴に対して、まるで悠貴の右腕のような仕事っぷりを発揮するのだ。そういった点で副島は本当に優秀だとなと、悠貴は常日頃から思っていたりもするのだが。
「分かった。それじゃ、それまでは様子を見るしかないかな……」
 話を聞いて、悠貴は落胆したようにまた頬杖をついた。すると、副島がめがねの中央を中指でくいっと押し上げる。
「……一つ、提案があるのですが、お聞き願えますか?」
 副島が神妙に言う物だから、悠貴は思わず彼に向き直った。
「提案っていうのは?」
「実は――」
< 13 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop