とある高校生の日常短編集
 数日後。
 あれから朴の真似っこはエスカレートしていき、鞄やキーホルダー、文房具系ははもちろん、制服の着こなし方や話し方など何から何まですみれの真似っこをしてきたのだ。すみれもこの事態には酷く辟易していたが、自分が当事者と言うこともあってか、何もできず、ただただされるがままの日々を送っていた。
「はぁ……」
 ぐったりと机の上に突っ伏すすみれ。すると、そこに六花がやってきた。
「お姉様……」
「ああ、六花……おはよう……」
「顔色が優れませんわね……」
「あ、ごめんごめん……ちょっと、考え事が止まらなくて……」
 すみれは六花にそう答えると、むくっと体を起こした。そして、力ない笑顔を見せる。
「そうだ、お姉様! こちら、お受け取りくださいませ!」
「え? 何?」
 唐突に六花が紙袋をすみれの前に差し出した。すみれはそれを受け取ると、不思議そうに眺める。
「開けてみてくださいませ」
「うん、ありがとう」
 六花に促されて袋を開ける。すると、中にはしまえながちゃんの腕時計が入っていた。ベースは白なのだが、数字が金のシマエナガの枠の中に書かれており、金の針の先端もシマエナガの形を模していて、時計の中央にはパンジーが描かれている。
「わぁっ! 可愛い! これ、どうしたの?」
 すみれの顔が笑顔で輝く。六花も、明るくなったすみれを見て、一緒に微笑んだ。
「しまえながちゃん腕時計です。最近お疲れのお姉様に、心ばかりではありますが、ちょっとしたプレゼントです」
 にこっとお上品な笑顔で話す六花。すると、すみれは六花を満面の笑みで見上げた。
「ありがとう、六花! 大切にするね!!」
「ふふ。その腕時計を、どうぞわたくしだと思って大事に――」
「早速付け替えよーっと」
 六花の話もそこそこに。すみれは早速、今までつけていた普通の腕時計からしまえながちゃん腕時計につけかえた。
「うわぁ……可愛い……!」
 キラキラと目を輝かせて新品の腕時計を見つめるすみれ。すると、そこに乗山がやってきた。
「おっはよー、すみぽよ! 何を見て――って、すげぇ!!」
 乗山がすみれを見るなり声を上げる。
「すみぽよ、ついに腕時計までしまえながちゃんになってる! ここまで来ると、最早しまえながちゃんマスターだな!」
「ちょ、そんなこと……」
「え? 何? しまえながちゃんの腕時計?」
「何それ! 見てみたい!」
 乗山の声につられてか、何人かの生徒が集まってきた。
「南雲ちゃん、見せて見せて!」「うわ本当だ! しまえながちゃんの時計だ!」「超かわいいね!」「時計のバンドの色も、南雲さんによく似合ってる!」
 わいわい騒ぎ出され、あたふたするすみれ。六花もこの人の山をどうしようかと思ったとき。
「おはよう、皆。朝からどうしたの?」
 爽やかな笑顔で現れた生徒会長こと悠貴。すると、乗山が口を開いた。
「あ、会長! 見てよすみぽよの腕時計!」
「腕時計……?」
 言われるがままにすみれの腕時計を見る。
「……ついに、腕時計までしまえながちゃんになったとは……いっそ全身、しまえながちゃんになりきってみるとかどう? 風紀委員長さん」
「いやしないから、そんなこと。てか何よ、全身しまえながちゃんって」
「え? 着ぐるみかぶってくるとか?」
「登校する以前に家から出られないから!」
 悠貴とすみれのやり取りに、周囲がどっと笑い出す。
「でも会長、それは名案かも! ここまでしまえながちゃんグッズ持っているから、しまえながちゃん帽子とか被ってきてもいいかもね!」
 乗山が悠貴にのっかると、すみれが「えっ」と抗議の声を上げる。しかし……
「いいかもそれ! 南雲ちゃん、絶対似合うと思う!」「てか、絶対かわいいよね、しまえながちゃん帽子!」「お前そっちかよ!」「風紀委員長がしまえながちゃん帽子被ってきたら、めっちゃ親近感わきそ~!」
 わちゃわちゃ盛り上がり始めた。すみれも「いや、ないから~」と、乗じて笑っている。悠貴は久々に見たすみれの心からの笑顔に、思わず口元を綻ばせた。
「あ、やべ! チャイムが鳴ったから戻ろうぜ!」
 直後、予鈴が教室に鳴り響いた。乗山の一声で全員が自分の席に慌ただしく戻っていく。
「すみれ」
「ん?」
 悠貴も席に戻ろうとしたが、直前にすみれに声をかけた。
「放課後、ちょっと教室に残ってて」
 それだけ言って、悠貴は席へ戻っていった。用件こそ聞きそびれたが、今のすみれには放課後がとても待ち遠しく思えた。
 ……そしてこの時、すみれは気がついていなかった。すみれの席から少し離れたところに座っている朴が、悔しそうに舌打ちをしていたことに。



 放課後になった。
 すみれは帰り支度を終え、悠貴が来るのを待っていた。教室内はまだ何人かのクラスメイトがいてわいわいしている。
「ごめんね、すみれ。お待たせ」
「あ、悠貴。大丈夫だよ」
 挨拶を済ませると、悠貴がすみれの前に一つの可愛らしい小さな袋を置いた。
「……これは?」
「開けてみて」
 なんだかこんなやりとり、朝も誰かとやったなぁ……なんて思いながら、可愛らしい袋を開ける。すると。
「えっ……!!」
 すみれの目が一瞬見開かれる。そして、袋の中身を取り出した。
「……どう、かな?」
 悠貴が恐る恐る尋ねてきた。すみれは、今し方袋の中から取りだした――紫色のリボンと、同じく紫色の花がついた髪飾りを見つめながら呟いた。
「すごい……可愛い……」
 その髪飾りは、薄紫色にラメがかかったリボンが付いており、その中央には紫色のパンジーが飾られていた。
「これ、どうしたの?」
「いや、すみれに似合いそうだなーって思って……どう? 気に入った?」
 悠貴に尋ねられて、すみれは満面の笑みで頷く。
「うん! ありがとう!」
 すみれの満面の笑みに、悠貴も笑顔になる。ふと、すみれが髪飾りを新しくもらったものに付け替えた。
「……どう、かな? 似合ってる?」
 控えめに尋ねてきたすみれ。すると、悠貴は笑顔で頷いた。
「俺の思ったとおり、似合ってるよ」
「本当? 良かった」
 そういって、お互いに微笑み合う悠貴とすみれ。するとそこに、副島がやってきた。
「おや、南雲さん。髪飾りが変わりましたね」
 副島がそう言うと、すみれは笑顔のまま彼のほうに振り返った。
「うん! プレゼントで貰ったんだ! どうかな?」
 すみれがそう尋ねる。副島が答えようとしたとき、彼の横からひょいっと乗山が顔を出した。
「おおっ! すみぽよの髪飾りが変わった! なんか、急に大人っぽくなったって言うか……!」
「そ、そうかな……っていうか乗山君、私の今までの髪飾り、子供っぽかったって思ってたの?」
「あ、いや、そういう意味じゃなくって……!!」
 すみれにじとーっと見られて、弁解しようとする乗山。すると、彼の友達が集まってきた。
「おいおいノリー。お前、委員長に失言かー?」
「いや、そういう意味じゃなかったんだけど……!」
「委員長! こいつ、失敬罪で連行してやってよ!」
「なんでそうなるんだよ! これだけで反省文とか勘弁なんだけど!」
 わいわい騒ぎ出した男子達。すると、すみれは冷静な声で反応した。
「ちなみに、それを言うなら”不敬罪”ね? あと、これくらいじゃあ連行できないかなぁ……」
 すみれがそういうと、言い間違えた男子生徒を他の男子生徒がいじる。そして、また笑いが巻き起こった。
「……何でいつもいつも、アイツばっかり……!」
 そんな光景を、朴が教室の端から悔しそうに、爪をかみながら睨んでいたとはつゆ知らず……



 事件が起ったのは、その三日後だった。
 放課後になり、すみれはいつも通り帰り支度をしていた。今日は委員会はないのだが、帰りに目を通しておきたい資料があるから、それを探さないと……なんて考えながら、鞄を持って立ち上がった時だった。
「ねぇ、南雲さん」
 不意に声をかけられて振り返る。すると、そこにはどこか怖いオーラを漂わせた、笑顔の朴がいた。
「あ、ぱ、朴さん……どうしたの?」
 真似っこされている手前、思わず身をすくめてしまったすみれ。しかし、朴は気にせず続けた。
「あのね、その時計と髪飾り、どこで見つけたのかなって思って。あっちこっち探したんだけど、見つからないんだ」
 にこっと笑顔で聞いてくる朴。すみれはその笑顔に悪寒を感じながらも返事をした。
「え、ええっと……これ、どっちももらい物で……どこで手に入れたのかは、分からないんだよねぇ……」
 そういって、あははと乾いた笑いで誤魔化すすみれ。すると、朴の表情が変わった。
「……へぇ? そうなんだ? 私に真似されるのが嫌で、わざと知らないフリをしているんじゃないの?」
 思わぬ発言に、すみれは「え?」と瞳を瞬かせる。まぁ、半分くらいは合っているのだが……
「い、いや、本当だって! これ、2、3日前に貰ったんだよ!」
「誰に?」
「腕時計は六花……えっと、國松さんに。それで、髪飾りは三笠君に」
「じゃあ聞いてきてほしいなぁ。私も同じのが欲しいからさぁ」
「え、えぇ……」
 朴の反応に、「そこまでするの?」と思ったすみれ。断りたい所だが、どう言い返そうか……そう悩んでいると、朴が詰め寄ってきた。
「まさか、聞いてきてくれる気ないの?」
「えっと、いや、その……」
「そっか……南雲さんはもっと心の広い人だと思っていたんだけど、やっぱりそうやって、珍しい物を独り占めして一人目立ちたいだけなんだ……」
 朴のこの言葉に、すみれの表情が明らかに変わった。今までの困り顔はどこへやら、驚いた顔を凍り付かせている。
「ああやって、皆に囲まれてちやほやされたくて、それを他の人に取られたくなくて……だから、可愛い物とかあっても教えてくれないんでしょ? まさか、南雲さんがそんな人だったなんて……」
 朴はそういうと、わざとらしく目元に手を当てて鼻をすする。すると、周りのクラスメイトがざわつき始めた。
「え? 何々?」「あそこ、何かあったの?」「もしかして朴さん、泣かされてる?!」「あれ、南雲さんじゃん……!」「もしかして南雲さん、朴さんを泣かせちゃったの……!?」
 ヒソヒソと聞こえてくる声に、流石のすみれも動揺した。この状況、どうすればいいんだと考えるも、頭の中が真っ白になって考えられない。
「そう、じゃなくて……」
「違うって言うなら、聞いてきてよ? その腕時計と髪飾りがどこのお店で売っているのか、今すぐ聞いて――」
「聞いても無駄ですよ」
 朴の声を遮って入ってきたのは、副島の声だった。すみれが驚いて顔を上げると、彼女と朴の間に悠貴と副島が割って入ってきており、すみれに背を向けた状態で立っていた。
「悠貴、副島君……!」
 すみれは驚いていると、隣にもう一人……怖い顔をした六花が、すみれの隣に立って朴を睨んでいた。
「なっ! 何よ……!」
「もう一度申し上げますね。お店を聞き出したところで無駄だと、申し上げましたが……お聞きになりましたか?」
 副島が少し高圧的な口調で話す。すると、朴が2、3歩下がった。
「ど、どういう意味? ちょっとよく分からないんだけど……」
 朴が、どもりながらも強気に出る。
「そうですね……では、僭越ならが俺の方から説明致しましょう」
すると、副島がめがねの中央を中指でくいっと押し上げた。
「南雲さんが持っている腕時計と髪飾りは、それぞれプレゼントとして貰った物です。腕時計は國松から、そして髪飾りは生徒会長こと三笠からの贈り物です。そして朴さん、貴方はそのプレゼントと、全く同じ物が欲しいからと南雲さんに尋ねたんですよね?」
 副島の質問に、ぎこちなくも頷く朴。
「だ、だって、私も欲しかったんだもん。なのに――」
「申し訳ありません。まだ話は続くので、お聞きいただけますか?」
 副島の圧に、朴は黙り込んだ。
「しかし、残念ながら入手先のお店については、当然ながら南雲さんもご存じありません。プレゼントされたものですから、当然といえば当然ですが。そこで貴方は、南雲さんに”意地でも店を聞き出せ”と詰め寄られた……南雲さん、ここまでのお話に相違はありますか?」
 副島が振り向いてすみれに尋ねる。すみれは首を左右に振った。
「い、意地でもとは――」
「では続けますね」
 朴が何か言おうとしたが、副島がそれを許さなかった。
「本題に戻りましょう。貴方が必死に探している、南雲さんの腕時計と髪飾り……恐らく相当探されたかと思うのですが、残念ながらこちらの二点は、どこにも売っておりません。何故ならこれらはそれぞれ、”完全オーダーメイドで作られた非売品”なので」
「オーダーメイドの、非売品……?!」
 副島の説明に、朴は目を丸くさせる。すると、六花が口を開いた。
「お姉様がつけている腕時計……これはわたくしの実家、國松財閥の傘下にある時計ブランドに特注で作らせたものなんです。お姉様がしまえながちゃんをこよなく愛されていることは知っていましたから、それをモチーフに作らせたのですが……それだけだと味気がないので、お姉様のお名前でもある”すみれ”ことパンジーも、デザインさせて頂きましたわ」
 そう、六花は財閥のご令嬢。そして六花の実家である國松財閥は、数々の有名ブランドを傘下に持つ財閥なのだ。
「ちなみに、時計のベルトはお姉様のお肌に合うものを選ばせました。時計の縁には、お姉様の好きなアメジストの粒をあしらえております」
 六花に言われて、改めて時計を見る。貰ったときは気がつかなかったが、確かに時計の縁にアメジストの粒があしらわれており、キラキラと輝いていた。
「髪飾りも、我が家が抱える店で特注したやつでね。すみれが好きな紫色と、名前にちなんだパンジーでデザインさせて貰ったんだ」
 次に話し出したのは悠貴だった。”我が家が抱える店”とは、勿論ヤクザ玄武組の管轄下にある店の事だ。玄武組は幅広いビジネスに手を出しており、女性向けのヘアアクセサリーグッズのお店も持っていたりするのだ。
「流石にアメジストの粒とか、そういう豪華な物は入っていないけれども……ああ、リボンの長さとか色の濃淡は、デザイナーとたくさん相談したなぁ」
 ここまで話して、朴は完全に固まった。何も言わなくなった朴に、副島は話かけた。
「さて、これで”お店を聞き出しても無駄だ”と俺が申し上げた理由、ご理解頂けましたか?」
 この質問に、朴は我に返る。
「わ、分かったけど……な、なんでそんな事したの? プレゼントするなら、そんな豪華なものにしなくったって――」
「”パクっこ朴ちゃん”」
 次に口を開いたのは、悠貴だった。そしてこの一言に、朴が目を見開く。
「ど、どうしてそれを――」
「いや、申し訳ない。貴方があまりにも執拗にすみれの真似をしたがるものだから、気になっちゃってさ。そしたら昔、こんなあだ名で呼ばれていたとはね」
 悠貴は笑顔で話しているが、朴の表情は固かった。
「どうして貴方が、執拗なまでにすみれの……いや、人の真似をするのか。その理由、勿論自覚していますよね?」
 悠貴がどこか挑発的に言う。すると、朴がムキになって答えた。
「だったら何よ!? その人の真似をしようがどうしようが、私の勝手でしょ!?」
「まぁ、一理あるけど……それでも、何事にも限度っていうのがあるんじゃないかな?」
「だって! 誰も私のことを構って――!!」
 朴はそこまで言って、手で口を押えた。どうやらボロが出たらしい。
「……最初、貴方はすみれのように周りからちやほやされたり人気者になりたかったから、という動機で真似を始めた。けれど、何を真似しても自分の境遇が変わらない。そんな日々を過ごしているうちに、貴方はこう思った。”どうして誰も自分を見てくれないんだ。どうして南雲さんばっかりちやほやされるんだ”と……」
 淡々と語る悠貴に、朴は何も言い返さない。いや、言い返せないのだ。
「そうして、貴方はすみれに”嫉妬”した。そして、嫌がらせとも言えるレベルまでの真似をし、それができなければ今回のような強硬手段に出た……こんなところかな?」
 証明終了、と言わんばかりの顔で説明を終える悠貴。すると、朴は悔しそうに俯いた。
「……そうよ。南雲さん、いっつも皆にちやほやされてて、すっごく羨ましかった。私も同じようになりたくて、どうしたらいいかなって思って……それで、真似すればいいんだて思って」
 朴の体が、悔しさからかフルフルと震えだす。
「今までもそうだった。憧れの人がいたら、それを真似すれば良いんだって……でも、いっつも上手くいかなくて……その度に思っていたんだ、どうして私ばっかり上手くいかなくて、あの人ばっかり上手くいくんだろうって……真似しているんだから、私だって同じように人気者になってもいいのにって……!」
 ぎゅっと握られた掌が、わなわなと震える。朴はそこで一度口を閉じた。
「……ねぇ、思ったんだけどさ」
 すると、そこですみれが口を開いた。視線がすみれに集まる。
「確かに、憧れの人の真似ってしたくなるのは分かるよ。でも、その人の真似をしたからっていって、その人と全く同じ物を得られるかって言ったら……それは違うよね」
 すみれの言葉に、朴の体の震えが止まった。俯いたままだが、はっとしたように目を見開いてる。
「俺も同感です。その人を真似したところで、結局は外しか真似できません。故に、その人に惹かれる最大の要因は、その人の”中身”だと思います」
「お姉様が周りから人気なのは、外見だけじゃなく、そのお人柄や人望あってのもの、なんじゃないんです?」
 副島と六花も、すみれに続けて話す。そして最後に、悠貴が口を開いた。
「貴方が本来やるべき事は、人の真似をすることではなく……自分の個性や心を、周りに見せることじゃないかな」
 ここまで話すと、朴がまたわなわなと震えだした。そして、鼻をすする音。今度はわざとではなく、自然な音だ。これは、彼女が本当に涙を流しているという、何よりの証拠だ。
「ちょっと難しいけど……”自分らしく”が一番いいってことだよね」
 すみれはそう言うと、悠貴と副島の間を通って朴の前に出た。
「いきなりは大変かもしれないけどさ。まずは、自分の好きな物から始めていけば良いんじゃないかな」
 すみれがそういうと、朴が顔を上げた。彼女の瞳には涙が浮かんでいる。
「まずは手始めに、髪型から! 私とお揃いも良いけれども、もっと朴さんらしいというか……ロングがいいのか、ショートがいいのか、とか? そういった所から、始めてみようよ!」
 すみれは笑顔でそういうと、朴に手を差し出す。すると、朴は驚いたようにすみれを見た。
「……許して、くれるの……?」
「半分はね」
 ”半分”と言われ、朴は悲しそうな顔をする。すると、すみれは笑顔を崩さずに続けた。
「もう半分は、朴さんが人の真似っこを卒業出来たとき。そうすれば、私も心置きなく許せるからさ」
 「ね?」と言われて、朴は目を見開いた。そして、まだ瞳に涙を浮かべながらも笑顔を見せる。
「……ありがとう、南雲さん」
 そういって、朴はすみれの手を取った。
「……これで、一件落着かな」
 そんな二人を見て、悠貴がぽつりと呟く。隣で副島がそっと頷いた。



 ……あれから、朴の”真似っこ”は幕を閉じた。数日後には長い髪をバッサリ切って登校してきたという。文房具やキーホルダーなども、しまえながちゃんから他のキャラクターに変わっていた。
「これで本当に、一件落着だね、すみれ」
「うん。でも……」
 悠貴に言われて頷くも、どこか暗い顔のすみれ。悠貴はそんなすみれに首を傾げた。
「でも……?」
「しまえながちゃんファンが減っちゃったと思うと、心苦しい所があるんだよねぇ……」
 残念そうに言うすみれ。悠貴は思わず笑った。
「いや、あれはファンじゃなくって、すみれの真似の延長線だからね?」
「いや、分かっているんだけどさ……あー、仲間がへっちゃったぁ……」
 変なところでヘコむすみれ。悠貴はそんなすみれをみて、やれやれと笑った。
 今日も、すみれの左腕にはアメジストがあしらわれたしまえながちゃん時計が、髪には紫のリボンとパンジーの髪飾りがついていた。
 
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