ゆびきりげんまん
ピアノの魔法
「ただいま〜」
玄関のドアを開けて声をかけると、母がダイニングからの扉を開けて出てきた。
「おかえり」
そして、私の後ろに葵君の姿があるのを見とめて、
「あら! まあ! 葵君なの?! 大きくなって!」
母は懐かしげに声を弾ませた。
「ご無沙汰しています」
そんな母に葵君は深々と頭を下げた。
「ピアノを聞きにきてくれたの」
「そうなの? どうぞ、あがって! お茶を用意するわね」
「お構いなく……」
葵君をピアノのあるリビングに案内すると、葵君は懐かしそうに目を細めた。
「ピアノの位置、変わっていませんね」
「うん。何を弾こうか?」
そばのソファーに座った葵君は、ちょっと首を傾げて考えてから、
「じゃあ、まず『エリーゼのために』、聴きたいです」
と言った。
幼い頃葵君によく聴いてもらった曲だ。
「分かった」
懐かしく思いながら弾き始める。なんだか時間が戻ったみたい。
美しくそしてどこか物悲しいメロディーが空間に広がる。
小さな私は何度も何度も間違えながら葵君にこの曲を聞いてもらった。間違えずに弾けるようになった時は自分のことのように葵君、喜んでくれたっけ。
パチパチと葵君が手を叩く音が私を現実に呼び戻した。
「僕、この曲、好きだったんです。でも、あの頃と全然違いますね。凄く上手です」
「まあ、小学生のときと比べるとそうだよ」
「そうですよね」
笑う葵君はちょっと寂しそうだった。
玄関のドアを開けて声をかけると、母がダイニングからの扉を開けて出てきた。
「おかえり」
そして、私の後ろに葵君の姿があるのを見とめて、
「あら! まあ! 葵君なの?! 大きくなって!」
母は懐かしげに声を弾ませた。
「ご無沙汰しています」
そんな母に葵君は深々と頭を下げた。
「ピアノを聞きにきてくれたの」
「そうなの? どうぞ、あがって! お茶を用意するわね」
「お構いなく……」
葵君をピアノのあるリビングに案内すると、葵君は懐かしそうに目を細めた。
「ピアノの位置、変わっていませんね」
「うん。何を弾こうか?」
そばのソファーに座った葵君は、ちょっと首を傾げて考えてから、
「じゃあ、まず『エリーゼのために』、聴きたいです」
と言った。
幼い頃葵君によく聴いてもらった曲だ。
「分かった」
懐かしく思いながら弾き始める。なんだか時間が戻ったみたい。
美しくそしてどこか物悲しいメロディーが空間に広がる。
小さな私は何度も何度も間違えながら葵君にこの曲を聞いてもらった。間違えずに弾けるようになった時は自分のことのように葵君、喜んでくれたっけ。
パチパチと葵君が手を叩く音が私を現実に呼び戻した。
「僕、この曲、好きだったんです。でも、あの頃と全然違いますね。凄く上手です」
「まあ、小学生のときと比べるとそうだよ」
「そうですよね」
笑う葵君はちょっと寂しそうだった。