ゆびきりげんまん


 掃除時間が終わり、ともちゃんと二人で持っていたゴミ箱。ともちゃんの方がガクンと下がった。


「ともちゃん?」

「ん? あ、ごめんごめん」


 ともちゃんは何か考えているのか、それからは喋らなかった。

 焼却炉にゴミを入れて教室へ戻る途中だった。


「やっぱり、王子だ」


 小さくともちゃんの言葉が響いた。

 ともちゃんは葵君に声をかけようとしてやめた。その様子に私はともちゃんを見る。


「どうかしたの?」

「女子がいるの」

「え?」

「これって……」


 ともちゃんの言葉に私はともちゃんの見つめる先を見てしまった。

 体育館裏。

 向き合う一人の女子と葵君。


 どくんと心臓が鳴った。

 女子は顔を赤くしている。

 そして。



 『羽田君が好きです』
 


 女子の口がそう動くのを私は見た。


 どくん。どくん。体中が心臓になったよう。


 だめだ。私、見てられない。


「……ごめん、ともちゃん、私、先に行くね」
 

 私はそう言ってゴミ箱をともちゃんに押し付けて駆け出した。


「沙羅?!」


 ともちゃんの声が後ろから聞こえたけれど振り返らなかった。

 心臓が破裂しそう。

 なんだが頭も痛い。

 こんなにも動揺してる自分がいた。

 葵君はなんて返事をしたんだろう。

 気になるけど、聞きたくなかった。

 葵君、付き合うのかな。

 そう思うと、胸の中に黒い嫌な気持ちが広がった。


 嫌! そんなの嫌!


 でも。

 告白。もしかしたらともちゃんもするかもしれないんだ。

 そう思ったら足が止まった。

 ともちゃん。私の一番大切な友達。

 ともちゃんが葵君と付き合うなら、ゆるせる。そう思えると思ってた。

 でも違った。

 やっぱり嫌だと思った。

 葵君が特定の誰かと付き合うなんて嫌。

 ともちゃんであっても、誰であっても嫌だ。


 そう思って、私は愕然とした。

 私は葵君を好きなことを自分の中に押し込めようとしていた。そうすればいつか忘れられると思ってた。

 でも。

 そんなの無理だった。


 この先、誰かが葵君の隣にいるのを想像するだけでどうしようもなく嫌な気持ちになる。この暗い気持ちを今後失くせるとは思えない。

 葵君を諦めるということは、葵君の隣に誰かがいても、それをゆるすということだ。そういうことなのだ。


 私は到底無理だと思った。

 私は葵君を諦めるなんて、できない!

 


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