ゆびきりげんまん
遠い日の約束
 スケート場に入るとすぐに違和感を感じた。人がいないのだ。

 おそるおそるリンクのそばに近づく。

 誰もいないリンクにただ一人、葵君だけが立っていた。


「あ、葵君?」

「沙羅さん、約束どおり来てくれたんですね! 嬉しい! 今日はリンクを貸し切りにしたんだ」

「そ、そんなことできるんだね」


 戸惑う私に葵君はリンクから私のもとへやってきた。


「僕、今日は沙羅さんだけのために演技しますから。試合ではファンの皆さんのために演技するけれど、今日は沙羅さんだけのためですから」


 葵君の目には強い力が宿っていた。

 私はその目を見つめ返した。


「わかった。私、見てる」


 私だけのための演技。葵君はどうしてそんなことをするのだろう。

 期待が大きくなってしまう。

 ともちゃんの言葉のせいだろうか。

 葵君。

 もしかして、葵君にとっても私は特別なのかな。

 だめだよね、勝手に勘違いしちゃ。

 でも。でも。
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