指先から溢れるほどの愛を
とりあえず急いで水飲み場の水道にしゃがみ込み、スーツが濡れないようにだけ気をつけて頭を洗う。当然ちょっとやそっと濡らしただけじゃ落ちない。

そろそろいいかなという所で水道を止めハンドタオルで拭くも、こんな小さなタオルじゃ到底水分は吸収しきれず、頭からは雫が垂れていた。

これ、後40分位で乾く……?いや、いくらショートボブで今日は天気もいいからって、この濡れ具合じゃどう考えても無理でしょ……っ!

これから面接なのにこの状況をどうすれば良いのかなんて、プチパニックの頭ではまともな案など浮かばない。

今日は就活が始まって以来初めての面接で、しかも本命の紬出版。だからさすがの私もすごく緊張していたし、不安で一杯だった。

それなのによりにもよって何で今……。ツイてない。

ポタ、ポタと髪から滑り落ちる雫が、乾いた土にもミドル丈のベージュのトレンチコートの肩にも小さな染みをいくつも作って行く。

やるせないこの気持ちを眼力に込めてキッ、と公園内を散策している鳩に向けるも、ヤツらはどこ吹く風。

悔しいやら悲しいやらおかしいやら、色んな感情がごちゃ混ぜになり胸の奥から何かが迫り上がって来そうになった、その時。
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