指先から溢れるほどの愛を
藤川さんは私が立ち止まっていたコーヒーショップでコーヒーを飲んでいた所、この雨の中傘も差さずに飛び出そうとしていた無謀な後輩(私のこと)を見つけて出て来てくれたらしい。

普段ドSだし言い方はぶっきらぼうだけど面倒見が良くて根は優しい。

そんな藤川さんに想いを寄せる女子が複数いることを、私は知っている。


「で?相原はこれから坂崎さん所に何しに行くの?」


歩き出しながら聞かれる。ボトボトボト!と雨が傘に当たる音が賑やかなせいで拾いにくい藤川さんの声。だから少し藤川さんの方へ寄りながら答える。


「あ、ヘッドスパを受けに」

「ヘッドスパ?」

「はい。月一で受けに行ってて」

「そりゃあ随分と贅沢だな」

「そうなんです。でも坂崎さん、お金は受け取ってくれないんですよ。坂崎さんの所だと30分コースで4、5千円はするのに」

「は?」

「"一ヶ月頑張ったご褒美だと思え"って、本当商売っ気なさ過ぎですよね!」

「いやお前それ……」

「分かってます、分かってます!あんなカリスマ美容師様をタダで働かせるとか、お前何様だよって感じですよね……」


唖然として何か言いかけた藤川さんに、慌てて被せる。


そうなのだ、坂崎さんは今まで私から一度もヘッドスパの料金を徴収していない。
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