指先から溢れるほどの愛を
「お前、まさかこんな土砂降りの中傘も差さないで突っ走って行く気じゃないだろうな?」

「えっ、藤川さん⁉︎いや、あの……」


そこにいたのは何と藤川さんで、私を見下ろしながら眉間に皺を寄せ、非常に渋い顔を浮かべていた。

そのまさかです、とは言いにくい雰囲気で、つい吃ってしまう。
 
まぁバッグを頭上に掲げている時点で誤魔化しきれないことは分かっているのだけれど。慌ててバッグを下ろす。


「……はぁ……。どこまで行く?」


案の定呆れたように溜め息を吐かれた。


「あ、えと、坂崎さんのお店まで……」

「じゃあ入れてってやる」
 

予想外の申し出と共にビニール傘を開く藤川さん。


「え、でももうすぐですし申し訳ないですし、走って行けば大丈夫ですから!」

「お前なぁ……。ずぶ濡れの状態で行ったら店にも迷惑だろうが。まぁすでにそこそこ濡れてっけど。いいから大人しく入ってけ」

「……そ、それは確かに……。でも藤川さんこれから予定とかあるんじゃ、」

「何もねーよ。で、行くの?行かねーの?」

「……じゃあすみません、お言葉に甘えてもいいですか……」

「ああ。こういう時は最初から素直に甘えとけ」


恐縮しながらペコリ頭を下げると、藤川さんがふ、と笑う。
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