指先から溢れるほどの愛を
そうして連れてこられたのがスタイリングチェアが2席、シャンプー台も2席のこぢんまりとしたヘアサロン『C’est la vie』。

スタイリングチェアの前の壁はドアと同じ藍色で、その他の壁は生成色。インテリアやディスプレイなど、そこかしこにセンスの良さが滲み出ているお洒落な空間だった。


「ここ、明日オープンするオレがオーナーのヘアサロン。さ、こっち座って。シャンプーとブローしてやるから」


「は?え?」


彼は状況が飲み込めず戸惑う私のコートとスーツのジャケットを脱がし、レセプションカウンターの後ろにあるクローゼットに掛けた後私をシャンプー台へと促した。


「ほら、時間ないから早く」


そしてあっと言う間にケープを着せられ、頸に添えられた手と共に傾く椅子に合わせてそっと後ろに倒される。

こんな時なのに彼のシャンプーはとても心地良くて、さっきまで強張っていた身体の力が抜けて行くのが自分でも分かった。

トリートメントまでしてくれた後手早くブローを済ませ、ヘアワックスを揉み込み簡単にセットまでしてくれる。


「メイクも崩れてるな。ちょっと直していい?」


そう問われればもはやこくこくと頷くことしか出来ない。

目ぇ瞑って。少し口開けて。私は完全に彼の為すがままだった。

< 7 / 68 >

この作品をシェア

pagetop