悪役令嬢の幸せ愛人計画〜王太子様に(偽)溺愛されています〜
書き終わった所で、先程までの話の行方を見守っていた酒場の女将さんが、不安そうな表情でユリアーネに声を掛ける。
「ユリア。見る事しか出来なかったアタシが言うのもなんだけど、そんなに簡単に契約書にサインして良いのかい?」
問いに答えたのはユリアーネではなく、ユリアーネを買った男だった。よくよく考えると、まだこの男は名乗ってすらいない。
「心配しなくていいよ。悪い条件じゃない」
「だけどねえ……」
「まあ、彼女は俺の愛人になる事を決めたわけだし、この酒場の従業員を引き抜く事になるから、君達にもある程度補償はするよ。――まあ、まずはこっちかな」
渋った女将さんに男は懐から小袋を取りだした。見るからに重量のありそうな見た目のそれを、高利貸しに渡す。
「はい。これで彼女の返済は全て終わった訳だ」
高利貸しは受け取ったものの、確認とばかりに袋の金貨を取り出す。ある程度枚数を数えた後に、ちゃんとと額があることを認めたのか、小袋の口をキュッと閉めた。
なんとも言えない、複雑そうな表情で。
「確かに受け取った。――額は合っていたが、兄ちゃんは一体何モンだ?」
高利貸しの疑問には答えず、男はニコリと微笑む。そして、そのまま続けた。
「これで、もう彼女にちょっかいは出す理由は無いだろう?」
高利貸しは一瞬グッと黙って、「フン、分かったよ。これで引いてやる」とヒラヒラと手を振り、注目を浴びながら酒場から出て行った。やっと張り詰めた酒場の空気が緩み出した所で、ユリアーネもホッと肩の力を抜く。
「ユリア。見る事しか出来なかったアタシが言うのもなんだけど、そんなに簡単に契約書にサインして良いのかい?」
問いに答えたのはユリアーネではなく、ユリアーネを買った男だった。よくよく考えると、まだこの男は名乗ってすらいない。
「心配しなくていいよ。悪い条件じゃない」
「だけどねえ……」
「まあ、彼女は俺の愛人になる事を決めたわけだし、この酒場の従業員を引き抜く事になるから、君達にもある程度補償はするよ。――まあ、まずはこっちかな」
渋った女将さんに男は懐から小袋を取りだした。見るからに重量のありそうな見た目のそれを、高利貸しに渡す。
「はい。これで彼女の返済は全て終わった訳だ」
高利貸しは受け取ったものの、確認とばかりに袋の金貨を取り出す。ある程度枚数を数えた後に、ちゃんとと額があることを認めたのか、小袋の口をキュッと閉めた。
なんとも言えない、複雑そうな表情で。
「確かに受け取った。――額は合っていたが、兄ちゃんは一体何モンだ?」
高利貸しの疑問には答えず、男はニコリと微笑む。そして、そのまま続けた。
「これで、もう彼女にちょっかいは出す理由は無いだろう?」
高利貸しは一瞬グッと黙って、「フン、分かったよ。これで引いてやる」とヒラヒラと手を振り、注目を浴びながら酒場から出て行った。やっと張り詰めた酒場の空気が緩み出した所で、ユリアーネもホッと肩の力を抜く。