悪役令嬢の幸せ愛人計画〜王太子様に(偽)溺愛されています〜

情報が速すぎる

 ユリアーネの向かいにアマーリエは腰を下ろす。イルゼが紅茶を置いた。それには目もくれず、アマーリエは話を続ける。

「いきなりリーヴェス様がご自身の宮に愛人を迎えられたのだもの。しかも平民ですって?びっくりしてしまって、本当かどうか確かめに来てしまったわ」
「そうでしたか……」

 ジロリ、と穴が空くほど見つめてくるアマーリエに、居心地悪そうにユリアーネは冷や汗をかく。
(居心地が悪いわ……。愛人がどんな者か確かめたいだけ……という認識で大丈夫よね?)

 愛人も中々表立って言えることでは無いが、賞金首というもっと言えない事情を抱えているユリアーネにとっては、気が気ではない。

 内心焦りながらも、静かに紅茶のカップを持ち、背筋をしっかりと伸ばしたまま、カップを傾ける。
 そんなユリアーネの姿に、アマーリエはまた怪しい者を見るような表情になった。
(それにしても、ただの平民をこんなに観察する事ってあるかしら……?)

 そんなに一挙手一投足を見つめなくてもいいような気がする。
 まるで、細部まで見なければいけないものがあるかのような――、例えば、指名手配のお尋ね書を思い出すかのような。

「あの……、何か私の顔に付いてますでしょうか……?」

 視線に耐えきれなくなったユリアーネが、おそるおそる尋ねる。

「申し訳ないわね。平民なんて滅多に見る事がないから、物珍しく感じてしまったわ」
「そうだったんですね!」

 ただの観察で良かった事に安心し、ユリアーネは嫌味に思わず満面の笑みで返してしまった。アマーリエは奇妙な物でも見るかのように引く。
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