素直になれないツンデレ王女はこわもて護衛騎士に恋をする。年の差20歳はダメですか?

 メイの言葉に、涙がまた溢れた。

 悲しいのか、嬉しいのか……。

 今の私には分からなかった。

 ただぼんやりした頭が、ほんの少し動き出した気がした。


 それでも、体が十分に動くことは叶わなかった。

 心がただ痛くて重いというだけで、何も食べる気が起きないのだ。

 メイや医者に勧められるままに、何とか好きなものを一口だけ食べるという日々が過ぎていった。

 ドレスのサイズが合わなくなる頃には、シリルが発つ日まで数日となっていた。

 もちろん、あれから一度もシリルとは顔を合わせてはいない。



 そんな日の昼下がり、父が部屋へ様子を見に来た。

 その手には見慣れない黒い薄い本のようなものを手にしている。


「お父様」

「かわいそうな、わたしのルチア。すっかり痩せてしまって……」


 ベッドの横に腰かけると、父は私の頬に触れた。

 大きくて温かい、私の大好きな手だ。


「ルチアはまだ、わたしのようなたくましく大きな手の人が好きかい?」


 胸の痛みがズキズキと強くなる。

 だけど、どうしてもそれだけは変わらなかった。

 その思いだけは。

 私は父の言葉に、ただこくりと頷いた。
< 27 / 37 >

この作品をシェア

pagetop