溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
凪も結局,アイスの注文は1つだった。

何も聞かず



「カップで」



と2人分頼んでくれて。



「今更だけど……ほんとに良かったの?」

「うん。余ったバイト代,ここぐらいでしか使い道無いし」

「でもそれも,大分私に使ってなかったっけ……?」



待ち時間に,そんな会話をする。

凪の貯金は全て,凪が1年の頃にしていたバイトのお給料から来ているから。

そんな私の質問にも



「部活代わりに夜毎日入って,土日も呼び出されたりされなかったりで午前中だけ入ってたし,全然大丈夫。寧ろ使い道に困ってるくらいだから」



気にしないでと凪は笑う。

凪が,土日は午前中にしかシフトをいれなかったり,断ったりしていたのは全て私のところに来るためだった。

そう直接言われたわけじゃないけど,私はちゃんと,全部知ってる。

私の視線に気づいた凪が,また笑った。



「──円です」



店員さんも慣れた手付きで会計し,商品をくれる。



「美味しい?」

「うん,ひんやり」



甘いんじゃなくて,甘酸っぱい。

私のストロベリーは,久しぶりに食べても美味しかった。



「はい,どーぞ」



私の唇をふにゅっと押して,侵入したピンクのスプーン。

じわっと舌を冷やしたかと思えば,驚いている間に逃げていく。



「美味しい?」

「……うん」



自分の,あるのに。

素早く自然に口に入れられた。

美味しいそのアイスを,凪の使っていたスプーンで。



「真理のもちょーだい」



そのくせ,自分は自分のスプーンを向けてきて



「味が混ざるから,や」



私は凪の前からすっとカップを遠ざける。
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