桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
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定時になり、俺は急ぎ病院の外へと駆け出した。
俺は医者だが風邪だという美桜にどのような症状があるのか分からないため、勝手に美桜のカルテを使って薬を処方することは出来ない。そこで俺は仕事が終わると急ぎ薬局へと向い、風邪薬と解熱剤、ゼリーなどの喉越しの良い食べ物を購入し美桜のアパートへと向かった。
美桜のアパートの前まで来たが、部屋に電気はついておらず、インターホンを押すことを躊躇してしまう。それでも、意を消して目の前のボタンを押してみるが何の応答もなく、美桜に何かあったのではと不安になる。
留守なのか?
それとも体調が悪く眠っているのか?
このまま帰った方が良いのか考えあぐねいていると、部屋の中からガタリと音が聞こえてきた。
やはり中に美桜はいるようだ。もしかしたら、俺に会いたくなくて居留守を使っているだけかもしれない。しかし、放っておくことも出来ず、預かっていた合鍵を使って部屋の中に入って行った。それは付き合い始めてすぐに美桜から預かった物で、自分に何かあったときにのために、持っていて欲しいと言われた鍵だった。
俺は可愛いクマのキーホルダーの付いた鍵を使って、真っ暗な部屋の中を進んでいった。入ってすぐがリビングになっていて、その奥に寝室がある。俺はそっと寝室を覗き込んだ。ベッドがこんもりと盛り上がっていることから、美桜がそこにいることがすぐに分かったが、呼吸音がなにやらおかしかった。
ハッハッハッ……。
苦しそうに呼吸を繰り返す美桜の様子を見た俺は、ベッドに駆け寄った。
「美桜大丈夫か?」
美桜は俺の問いに答えることなく、苦しそうに呼吸を繰り返すばかり。
枕元に置いてあった体温計を使い体温を測ると、39.5℃高熱でグッタリとする美桜に、先ほど買ってきた解熱剤を飲ませる。額と腋窩、鼠径部といった太い血管の通った場所に冷却シートを貼った。これで少しすれば熱は下がってくるだろう。そっと美桜の頬に触れると、熱でうなされながら何かを言っている。そっと耳を近づけると、目尻から涙をこぼしながら美桜が手を伸ばしてきた。
「正悟さん行かないで……」
俺は伸ばされた手を取り、強く握りしめた。
「美桜、大丈夫だよ。俺はここにいる」
そう言うと、美桜は安心したようにホッと息を吐き、体の力を抜いた。