公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する

第22話 持参金



二人で買い物を済ませ、邸へと帰った。

紙袋の中にある箱には二人で買った手袋が入っている。
手袋の種類は違うが同じ灰色の手袋を二人で選び買った。

ルーナは、あの狼のぬいぐるみと同じ灰色が気にいっているらしい。

脇には、ルーナの冬用の帽子の箱を抱えていた。
荷物を持ってない手でルーナと手を繋ぎ邸に入ると、オーレンが急ぎ声をかけてきた。

「カイル様、先ほどバーナード公爵様がいらっしゃいました。書斎でお待ちです」
「バーナード様が? 何の用だ?」
「カイル様とお嬢様にご用があると言われまして……」

ルーナと顔を見合わせた。

「何のご用でしょうか?」
「わからん。だがお待たせするわけにはいかん。すぐに行こう」

ルーナの手を引いたまま書斎に入るとバーナード様は優雅にソファーでお茶を飲んでいた。

「バーナード様! お越し頂いたとは知らずすみません」
「いや、急にきて私の方こそすまないな」

バーナード様は俺達を見て少し驚いていた。
手を繋いだままのせいか、俺が荷物持ちをしているせいかよくわからんが、笑っていた。

「今日は観劇の日だったな。ルーナ、カイルと楽しめたか?」
「はい、凄く楽しかったです。観劇のチケットありがとうございました。美味しいお茶まで頂いてしまって……」
「それは良かった。それに、カイルと仲良くやっているようで安心したぞ。まさか手を繋いで帰って来るとは思わなかったが……荷物はルーナのプレゼントか?」
「はい、カイル様が手袋と帽子を買って下さいました」
「カイルはルーナに夢中だな。あの仏頂面が照れている」
「えっ、本当ですか?」

ルーナが俺を見たが、顔に手を当て下を向いてしまった。

「……今は見ないでくれ」

こんな姿を見られるのは初めてだ。
どうしたもんか。
とりあえず、オーレンに荷物をルーナの部屋に持って行かせて、話題を変えよう。

ルーナと二人でバーナード様の向かいに座り用件を聞いた。

「本題に入っていただけますか……」

ひきつった顔になっていたと思う。

「話題を無理矢理変えたな」
「用件をお聞きしたいだけです」

早く話してくれ、と思った。

「まぁいい。用件はこれだ」

バーナード様がテーブルに頑丈なスーツケースを俺達の前に出した。

「ディルスと夫人から頼まれた」
「開けても?」
「構わん」

開けると、金がぎっしり並べられていた。

「ディルス達から支度金を貰う資格がないのではと相談を受けた。全額もしくは一部返そうと思ったらしい。だが、カイルは受けとらんだろう?」
「当たり前です。あれはルーナの為に準備しました」

当然だ。ルーナが手に入るならいくらでも金を積むつもりだった。
惜しいとも思わん。

「だから、カイルは出した金を受け取るような男ではないと説明しといた。ならば、ルーナの持参金にと預かった」
「私に継母と義兄上が?」

驚いた。
随分反省しているのかと思った。
隣のルーナも驚きの表情だった。

「あの親子の事はもう心配要らん。私の団員だからこれからも私が相談にのる。ディルスの結婚も今は難しいだろうがその内、落ち着いたら私が相手を探そう」
「相変わらず世話がお好きですね」

バーナード様はこのような方だ。
世話好きで、見合いも趣味なのかと思うほどだ。
……この金もバーナード様からなら俺が受け取ると思ったか、それとも他に頼る者がいなかったか。
仕方ないな……。

「ルーナ、受け取りなさい。俺は必要ないから、ルーナが好きに使いなさい」
「こんな大金をですか!?」
「ルーナの小遣いにしなさい」
「お小遣いの金額じゃありません」
「ルーナも伯爵令嬢だ。持参金があっても不思議ではない」
「カイル様……」

結局、持参金として金を受け取ることにし、ルーナが好きに使える金とした。
俺の金も好きに使って良かったが、ルーナは気を使っていたから、結果的には良かったと思いたい。
まぁでも、ルーナのものは全て俺が買うから使うことはないだろうが。

「バーナード様。良ければご一緒に夕食でもどうですか?」
「悪いが妻が待っている」

そう言って、穏やかな顔で立ち上がりながら断られた。

「バーナード様、色々ありがとうございました」

バーナード様をお見送りする時、ルーナはしとやかに礼を言った。

「気にするな。あのカイルが惚れ込んだ娘を見たのは初めてだ。幸せになられよ」

そう言って、バーナード様はにこやかに帰って行った。

残されたこの空気をどうするんだ。
こんな風にからかわれるのは、初めてだ。

ルーナは真っ赤になり照れている。
頭を冷やしたい気分だった。

「……ルーナ、庭でも散歩するか?」
「は、はい」

庭の薔薇園に連れて行くと、ルーナがおずおずと持参金のことを聞いてきた。
持参金を持っておくのは不安らしく、とりあえず、いくらか持たして残りは俺が預かることにすると、ルーナは安心したように、ほっとしている。

「私の為にあんなにお金を使わせてしまってすみません。私の為に色々動いて下さいましたし。ありがとうございます」
「気にするな」
「でも、毎日のように贈り物もして下さいますし……」

薔薇園は二人っきりだった。
それでだろうか、ルーナを抱き上げてしまった。
ルーナは小さく、軽々と抱き上げれた。
彼女が愛しいと思ったのだ。

「ルーナが手に入るなら何でもする。金の話は終わりだ」
「はい……でも……」
「ルーナが欲しいだけだ……」

熱を帯びたようにそう言った。
抱き上げているせいかルーナは俺の肩に手をおき、頬に口付けをした。

「また、先にしたな……」
「こ、これだけは譲れません」

ルーナを抱き上げたまま抱き締め、同じように、頬に口付けをした。

まだ、これ以上手はださんが今はこれでいいと思っていた。


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