この政略結婚に、甘い蜜を
「僕の名前は花籠零。華恋の旦那だよ」

それだけを言い、床に座り込んだままの傑を置いて零は歩き出す。華恋は申し訳なさを感じながらも、ゆっくりと零の肩に腕を回した。



零に横抱きにされたまま、華恋はホテルの駐車場へと連れて行かれた。そこには零の車があり、その車の中へ押し込まれるように乗せられる。零は先ほどからずっと無言だ。

「あの、零さん……」

運転席に座った零に、華恋は恐る恐る話しかける。あのままでは無理やり傑に部屋に連れ込まれていたため、助けてくれたことは嬉しい。だが、出張のはずの零が何故ここにいるのか気になってしまったのだ。

「……」

零は黙り込んだままだ。華恋がもう一度零の名前を呼ぶと、零はゆっくりと華恋の方を向く。刹那、強く抱き締められた。

「……男と二人きりで出かけるなんて、何考えるの?浮気と一緒だよ?出張ズラしてもらってこっそり見張ってたから助けられたけど」

「すみません……」

震えている零の手に、華恋は自分がどれだけ愚かな真似をしてしまったのかわかる。零が他の女性と二人きりで出かけると想像するだけで、胸が怪我をした時のように痛むのだ。
< 134 / 186 >

この作品をシェア

pagetop