この政略結婚に、甘い蜜を
自身の頬が赤く染まっていることを、華恋は気付いていない。



その後、多くの招待客に話しかけられ、その度に足を止めて零が挨拶をし、華恋も会釈をしながら進んでいく。すると、龍羽とエミリーに出会った。

「やあ、二人ともこんばんは」

「Good evening!二人トモ、トテモ素敵デス!」

龍羽とエミリーに声をかけられ、零と華恋は「こんばんは」と挨拶をする。

「兄さん、父さんと母さんは?挨拶をしたいんだけど」

「俺たちもずっと探してるんだけど、見つからないんだ」

零と龍羽が両親がどこにいるのか話し始め、華恋はぐるりと宴会場を見回す。スーツやドレスで着飾った人たちが微笑みながら談笑するこの空間では、地位ある人たちしかいない。

そう、地位ある人しかーーー。

「その案、めちゃくちゃええわ。俺のところの人間も、もうちょいちゃんとやってほしいわ〜。ホンマに使えん奴ばっかりやで」

着物を着た茶髪の男性が、グラスの中のお酒を煽りながらはんなりとした言葉で毒を吐いている。その言葉と姿を見た刹那、華恋の心臓が嫌な音を立てて脈打ち、体が固まる。

「あっ……」
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