最初で最後の恋をする
二人の夜
「「「休講?」」」

大学の掲示板の前で三人がハモる。

「じゃあ、今日はもう講義ないね」
武虎が言った。

「どうする?みやび」
「まだ、帰りたくない」
厘汰を見上げる、みやび。

「だよな。俺もみやびと離れたくねぇし」

「俺は帰るね~」
武虎が手をヒラヒラ振り、去ろうとする。

「え?武虎?」
「厘汰、みやびを宜しく~」
「え?武虎、帰っちゃった……」

「あいつ…////
━━━━みやび、デートしよ?」

「え?」
「どっか行きたいとこねぇの?」
「行きたいとこ……あ!」

━━━━━━━━━━━━━━
「ここ?」
「うん。ここから見る景色、とっても素敵なんだって!」
二人は街から離れた丘の公園に来ていた。

「へぇー、凄いな。
街が見渡せる!」
「でしょ?雑誌で穴場って書いてあったの」
「ここ、夜来たら綺麗だろうなー」
「うん。ほんとは……夜来てみたかったんだけど、さすがに無理だから」

みやびの髪の毛が、風に揺れる。

甘い匂いが厘汰を包む。
抑えられない欲求が込み上げてくる。

「好きだよ…」
無意識に呟く厘汰。

「え?厘汰?」

「何なんだろ?これ……」
「厘━━━━━」
二人の口唇が重なる。

ゆっくり離れ、口元で厘汰が呟いた。

「ごめん…」
「厘汰…私……」
「でも、またしたい…キス…」

「ま、待って…!!」
また口唇が重なる寸前に、みやびが厘汰の胸を押し返す。

「ん?」
「私、まだ…厘汰のこと……」
「わかってる」
「わかってないよ!
こんなの、おかしいよ…!」

「俺は、好き」

「厘汰…」
「好きなんだ」
「だからって……」

「みやび、冴木のとこになんか行くなよ!
俺の傍にいろよ!」
「厘汰…?どうし━━━━━」

「俺は、冴木みたいに大人じゃない!!
冴木みたいに、自分の欲求を抑えられない!」
「厘汰…」

「なんで……」
厘汰がみやびを抱き締めた。

「厘汰…苦し……」
「こんなに、好きなんだ?俺は……」

厘汰の苦しい声が、みやびの耳に響く。


冴木の“正々堂々と戦える”という言葉が頭から離れない。
厘汰は冴木の告白を聞いた時、冴木のみやびへの想いの本気度を思い知らされた気がした。

一瞬、冴木には勝てないような気がしていたのだ。

二年後……みやびに冴木と生きていくと言われたら、自分は生きていけるのだろうか。


厘汰は、不安に押し潰されそうになっていた。
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